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BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.59「シボレーコルベットコンバーチブル×よしおか和」

第59回目は写真家の「よしおか和」さんにご登場いただきました。

BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.59「シボレーコルベットコンバーチブル×よしおか和」

文/プロスタッフ写真/内藤 敬仁

1969 Chevrolet Corvette Stingray Convertible

この度、お邪魔したのはBUBU横浜店、筆者のお目当ては1969年型のシボレー・コルベット・コンバーチブルである。

お目当てと言ってもそれを購入するためにやって来た訳ではない。プライスは”応談”となっているが、現在ではこのモデル、4桁万円は当たり前なのが相場であり、悲しいけれど筆者には現実に検討出来る代物ではないのだ。

それでも古くからコルベットのクラシックモデルには縁があり、何台となく親しんで来たこともあってか、言ってみれば筆者の専門分野のひとつなのである。

車両イメージ今回はこの美しいコンディションの個体に垂涎の感情を寄せつつ、改めて解説をさせて戴く運びとなったので、是非皆さんにもお付き合い戴きたい。

そこで、今回はこの美しいコンディションの個体に垂涎の感情を寄せつつ、改めて解説をさせて戴く運びとなったので、是非皆さんにもお付き合い戴きたい。

奇しくも今年はコルベットが生誕してちょうど70周年を迎えた年。おそらくアメリカ本国に於いても、また我が国においてもそれを記念し祝うイベントが色々と企画されていることと思うが、このページでもアメリカで最も歴史あるこのスポーツカーの70’s Anniversaryに心から祝福の意を込めてレポートさせて戴こうと思う。

歴代コルベットの中でももっともアメリカ車らしいC3

ここでクローズアップしたのは3代目のモデル、近年では広く一般にC3と称されているモデルである。

ちなみに第1世代からのコルベットを、順にC1、C2、C3・・・と呼ぶのが一般的になったのは第5世代のモデル(C5)が発表された時からである。C4までの時代にはそんな呼び方は実際には殆どされていなかった。C1は初代コルベット、C2は初代スティングレイまたはミッドイヤー・モデルなどと呼ばれ、C3は3代目コルベットというのが最もポピュラーな呼び方だった。そしてC4は新型コルベット、あるいはNEWコルベットだったのだ。

もっとも、そんな話をしても今の世代のファンたちには通じまい。現在ではC4以前のコルベットは既に歴としたヒストリックモデルであり、特にC3は歴代モデルの中でももっともアメリカ車らしいモデルとして注目されている。その一番の理由はこのダイナミックでグラマラスなフォルムにあると言える。俗にコークボトル・ラインと呼ばれ親しまれたこのボディラインは、如何にもマッスルエイジを象徴するものであり、おそらくアメリカ車でなければ実現しなかったであろうエクステリアデザインなのである。

伝説の「マコ・シャークⅡ」の市販化モデル

プロダクション・モデルとしてC3がスタートしたのは、モデルイヤーで言うところの’68年型からであるが、その開発は既に1965年にスタートしていた。大きなヒントとなったのは、当時GMスタイリング部門のトップであったビル・ミッチェルが、部下のラリー・シノダと共に製作したエクスペリメンタル・モデル「マコ・シャークⅡ」であった。これは’61年に彼らがプロデュースしたコルベット・シャークの進化版で、サメを連想させる鋭く尖ったフロントノーズなどは前作から継承しつつ、ボディ全周を取り巻くエッジは姿を消し、その代わりに前後のフェンダーを思い切り盛り上がらせて、それとは対照的にキャビン部分を絞り込んだ造形が特徴だった。

車両イメージこの"マコ・シャークⅡ”は、’65年のニューヨーク・ショーで一般に公開された

この"マコ・シャークⅡ”は、’65年のニューヨーク・ショーで一般に公開されたが、その反響たるや凄まじいものだった。躍動感あふれるフォルムがあまりにも印象的で、ジャーナリズムは最大級の賛辞でこれを出迎え、会場を訪れたギャラリーたちはこのショーモデルの市販化を熱望したのである。

アフターマーケットパーツ業界をも味方にして大ヒット

ところで、この時代のコルベットの市販モデルといえばC2である。C2といえば前後の荷重が47:53という絶妙な値のフロントミッドシップを見事に実現させ、そこに4輪独立縣架を採用した上で、リアには横置きのリーフ・スプリングを導入した独創的なサスペンションデザイン。ホイールベースは98インチまで短縮され、より低く構えたドライビング・ポジションと同様に低くマウントされたV8エンジン。その全てが実に画期的で、コルベットが改めて”アメリカで唯一の量産スポーツカー”を名乗るに相応わしいクルマだと評価されたのだ。そしてこの開発に当たったチーフ・エンジニアのゾラ・アーカス・ダントフは、このC2をもってして”コルベットのゴッド・ファーザー”と呼ばれるようになったのであった。

そこでひとつの疑問が生じる。そこまでメディアに絶賛され、ユーザーたちにも好評だったC2が何故、結果的に僅か5年という短い生涯を遂げることになったのか?である。

スポーツカーとして独自の高性能を誇り、デザイン的にも非常に優秀で美しかったC2にも、実は決定的な弱点があったのだ。それは実に単純な理由で、C2には太いタイヤが履けなかったのである。

ミッド60sというこの時代、アメリカではアフターマーケット製のパーツを採用してのカスタマイズが流行し、ある意味、旋風を巻き起こしていたとも言える。そしてC2はボディサイドをぐるりと一周囲むようにデザインされたエッジの効いた鋭いラインによって、見事なまでに美しいフォルムを作り出してはいたのだけれど、そのお陰で物理的に標準サイズを大幅に上回るタイヤ&ホイールを受け付けなかったのだ。

そして、結果的に「マコ・シャークⅡ」をきっかけに誕生したC3は(一部の)ユーザー達の欲望さえも満たし、あらゆる面で如何にもアメリカのスポーツカーらしい性格と表情を具現化させて見せたのである。

こんな風に言うと、そんなにもワイドリムやファットラバーを備えるカスタムスタイルが重要だったのか?と首を傾げる声が聞こえてきそうなのだが、それくらいアメリカではアフターマーケットパーツを用いたカスタムカルチャーが無視出来ない重要な存在となっていたのは、明らかに事実なのである。

ちなみに筆者自身は、コルベットに限らずほぼ全てのモデルに関してオリジナルを尊重し、そのままの姿をいちばんCOOLとするセンスを自負しているのだが、アメリカのCar Guyたちは十人十色で、それぞれに自身の趣味に疑うことの無い絶対の自信を持っているのだろう。まあ、それはアメリカ人に限った話でもなく日本人や日本国内のカスタムカルチャーに関してもしっかりと共通する部分があるのだろうが、特にアメリカではそういうカルチャーが根強く定着しているところがあって、メーカーもそれを決して無視出来ない、というのが想像した以上にリアルな状況だったのだ。

なんだか話が随分と回りくどくなってしまったが、最終的に68年型から市場に投入されたC3はあらゆる層のユーザーに好評だったという訳なのである。

69年型から「Stingray(スティングレイ)」のネーミングが復活

さて、ここで改めてこの美しくて至極印象的なC3の姿をじっくりと見て戴きたい。

このC3には、C2と同様にふたつのボディ・スタイルが用意されていた。ひとつはC1から続く伝統的なコンバーチブル、そしてもうひとつはクーペなのだが、これに関してはC2時代とは大きく異なり、ルーフには着脱可能な左右2分割式のTトップを備え、加えてリア・ウィンドウも着脱可能な設計だったのだ。これによってコンバーチブルに匹敵する開放感を実現させたエアロクーぺが新たなデビューを果たしたのである。

ただし、ここで紹介するのはご覧の通りトラデッショナルなコンバーチブル・モデルである。既にお伝えしているように、モデルイヤーは’69年、即ちC3としてはデビューから2年目となる。そこでまずは’68年型との違いからひとつひとつ解説していこう。

いちばんの改良点は実は見えない部分にある。基本的にC3のシャーシはC2からそのまま継承したものなのだが、この69年型に於いてはフレーム自体がマテリアルの次元から見直され、具体的に言うと部分的にしっかりと強化され、確実にボディ剛性を向上させている。

なお、68年型ではC2に採用していた「スティングレイ」というサブネームが一旦外され、ボディの何処を見てもそれを示すスクリプトバッジは見当たらなかったのだが、この69年型で再びそのネーミングが復活し、フロントフェンダーの両サイドにそれを示すバッジが飾られたのである。ただしC2の時代には「Sting Ray」と2つに分けて綴られていたネーミングが、この69年型からのC3では「Stingray」と1語で綴られるようになったのが興味深い。

車両イメージこの69年型からのC3では「Stingray」と1語で綴られるようになったのが興味深い。

更に細かいことを言うなら、68年型ではプッシュ式のボタンと連動して作動する仕組みの、アウトサイド・ドア・オープニング・チャンネルが、プッシュボタンを廃して、ワンアクションで開くように変更された事。加えてインテリアでは、68年型ではダッシュに設けられていたイグニッション・スイッチ(メインキーを挿すところ)がステアリング・コラムにリロケートされた事。助手席の前にマップポケットが設けられ、68年型では非常に殺風景だった場所にアクセントが出来て、コルベットでは伝統あるシンメトリーなダッシュの風景がより印象的になった事などが挙げられる。

インテリアの話題に触れたついでにもうひとつ解説を加えると、この69年型からシートにヘッドレストが装備され、シートベルトの形状や取り付け位置等も変更された事も忘れてはいけないチェックポイントである。

ところで、C2時代から好評だったオプションアイテムにサイドマウント・エキゾーストがあるが、C3のデビュー当時、つまり68年型ではそれがオプションリストから姿を消した。だがおそらく多くのユーザーがそれを望んだのだろう。この69年型で再びそのアイテムが復活を遂げたのである。

ちなみに、68年型ではサイドマウント・エキゾーストの純正オプションが存在しなかった事で、主にHooker製のアフターマーケットパーツが持て囃された。それはある意味、ファクトリー・オプションを上回る性能を持っていたのだが、この69年型から再びリストに加わったシボレー純正のオプショナル・サイドマウントは、独自のデザインで非常に味わい深く筆者にはとても魅力的に映るのである(念のためにお断りしておくが、取材車はこのオプションを伴わない仕様であり、それはそれでデザイン的にもスッキリしておりとてもCOOLだと思える)。

俗に言うアイアンバンパーの中でも特にクラシカルなのが68&69年型

C3の初期のモデルは俗にアイアンバンパーと呼ばれて親しまれている。正確にはデビューの’68年型から’72年型までの5年間にラインオフしたモデルを示すのだが、その愛称のとおり前後に比較的華奢な造りの鉄製バンパーをクロームメッキを施した上で装着したのがその所以である。

その中でも、この’69年型まではフロントバンパー下に設けられたラジエターグリルの両脇にレイアウトされたポジションランプが小さな丸型で、それがシンプルかつキュートなイメージを抱けせることもあって人気を集め、アイアンバンパーの中でも一層クラシカルな雰囲気を醸し出していており、そのディテールが大好きというファンは多い。

同時にフロントフェンダーの両サイドに設けられたエア・アウトレットも、実際にブレーキを冷却するダクトの役目を果たしていることもあり、これをお気に入りのポイントに挙げるファンも少なくない。

アイアンバンパーならではのチャームポイントは、フロントのみならずリアにもしっかりと確認できる。やはりこの’69年型まではデュアル・エキゾーストのエンドチップが丸型で、これを可愛らしいと評する意見も決して見逃すことは出来ない。

今、ここに列記した幾つかのディテールは70年型以降にデザイン変更され、それはそれで間違いなく味わいのある造形なのだが、トータルバランスという見知からすると、よりクラシカルな印象が強いこの’69年型への票に軍配が上がるのである。

車両イメージC3の初期のモデルは俗にアイアンバンパーと呼ばれて親しまれている

ベースユニットならではの扱いやすさと現実的な価格が魅力の1台

さて最後はとても重要な搭載エンジンについて解説しよう。

コルベットではC1時代の’55年型でV8エンジンが登場して以来、それがポピュラーな存在となったが、C2時代の途中、モデルイヤーで言うところの’65年からは、スモールブロックとビッグブロックの2本立てとなった。

具体的に言うと’66年型から世代を跨いで’68年型までは、スモールブロックが327ユニットでビッグブロックが427ユニット。そして、そのどちらにも圧縮比やキャブレーション・システムの違いによってそれぞれスペックの異なる複数のバージョンが用意されていたのである。

そして、この69年型からスモールブロックV8が327から350へと切り替わった。327はボア4.00×ストローク3.25、それに対して350はボア4.00×ストローク3.48で、簡単に言うなら327のストロークを延長してパワーとトルクをアップさせたユニットなのである。シボレー製のV8エンジンの中でも、もっともポピュラーで多くのファンたちに親しまれてきたのがこの350だと言い切っても良いだろう。

車両イメージ圧縮比10.25:1で最大300hp@4800rpm、380lbs-ft@3200rpmを発生する標準型のユニット

ちなみに取材車が搭載するのは、圧縮比10.25:1で最大300hp@4800rpm、380lbs-ft@3200rpmを発生する標準型のユニットで。ベースユニットと呼ばれるとおり、決して特別なハイパフォーマンスを有するエンジンではない。しかし、それは見方を変えるなら、例えばオーバーヒート等に関する余計な心配をする事もなく、色々な意味でもっとも扱いやすいV8エンジンだとも言える。

ちなみに、350ユニットでは、このベースユニットの上に、圧縮比11.0:1で最大出力を350hp@5600rpmまでアップさせた「L46」がオプショナル・ユニットとして用意されていた。

更に解説するなら、ソリッド・バルブリフターとハイリフト式のカムシャフトを採用し、最大出力を370hpまでアップさせた「LT1」がコルベット用の350ユニットとしては最強とされるのだが、正式にはこのLT1が登場したのはモデルイヤーで言うところの1970年であった。

更に余談にはなるが、ビッグブロックの427ユニットに関して解説を加えるなら、69年型の最強ユニットは圧縮比12.5:1の「L88」で、カタログ上のパワー数値は435hp@5800rpm。ただし、この数値は当時、著しく上昇していた任意保険料を考慮して実際よりも低い回転域で表示したものであり、本当なら560hp@6400rpmと表示すべき実力を備えていたというのが専門筋の見解なのである。

何れにせよ、この時代のコルベットC3で、ビッグブロック427・V8のハイパフォーマンス・ユニットを搭載するモデルは、既にCar Guyというよりも投資を目的として購入する人たちに注目されるようになり、アメリカの有名なヒストリックカーのオークションでは、日本円に換算して億を超える落札額が当たり前のようにまかり通っている。

そういう意味では、今回撮影した350ユニットを搭載したコンバーチブルは、まだなんとか現実的に考えられる範疇であり、本当の意味合いでアメリカン・マッスル&スペシャリティカーを楽しみたいユーザー層にリコメンド出来る最後の存在とも言えるのではないだろうか?

これから先もまだまだ高騰することが予想されるクラシック・コルベットたち。思い切って決断するなら、もしかすると今がラストチャンスなのかもしれない。

動画のサムネイル

【 プロフィール 】

よしおか和



1957年東京生まれ。1978年写大卒。

子供の頃、TVや映画を通して憧れたアメリカとオーバーラップするシーンを求めて、今も旅を続ける写真家。

代表作は“ROUTE66~置き去りにされ た風景”。
尚、アメリカ車のクラッシックモデルについては超趣味人。
豊富なレストア経験を持ち、常に複数のアメリカ車と共に暮らす。現在は‘67ダッジ・コロネットRTでドラッグレースにもプライベート参戦中。 “A-cars”他アメリカ車専門誌ではライターとしても活動、 またこれまでに数多くのカーショウやレースイベントをプロデュース、ディレクションしている。

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