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BUBUがお届けする連載企画”ナレッジ” | Showcase.55「シボレー・コルベット×松田秀士」

第55回はレーシングドライバーの「松田秀士」さんにご登場頂きました。

BUBUがお届けする連載企画”ナレッジ” | Showcase.55「シボレー・コルベット×松田秀士」

文/プロスタッフ写真/内藤 敬仁

1992年、初体験のアメリカンV8は驚きの世界だった

歴代コルベット初のミドシップとなったC8。ボクが初めて米国のレースに出場したのは1992年のデイトナ24時間だった。後にキャデラックのル・マンプロジェクトを牽引したワークスドライバーのウェイン・テーラーに誘われたのが切っ掛け。ウェインとは前年(1991年)にSWC最終戦となったオートポリスでコンビを組んだ(ユーロレーシング)ことが縁となった。このオートポリスSWC最終戦でチャンピオンを決めたのがメルセデスチームのシューマッハーだった。

まぁそんな縁で初めての米国レース、しかもデイトナ24時間というビッグイベント。実はこの時ドライブしたマシンがIMSA/GTPクラスのスパイス・ジェビーだったのだ。つまりシボレーのOHV 6.0L V8エンジンをミッドに搭載するレーシングカー。そのシェビーV8エンジンは800psとエンジニアは豪語していたが、このとき開発中だったシボレー・イントレピッドのステアリングを握ることができた。こちらはプラクティスの短い時間だったが、6.5L V8エンジンで840psだという。驚くのはたったの2000rpmでスリックタイヤを履いたGTPマシンがドリフトしてしまうほどのトルクを絞り出していたこと。しかも24時間レースでは4000rpmしか回すことは許されなかった。それでも6速ギヤで300km/hオーバーの世界に引っ張ってしまう。とにかくアメリカのレース、アメリカのエンジン、どれもが日本では経験したことのない驚きの初体験だったのだ。

コーナーリング性能を追求した結果のOHV+ドライサンプ

車両イメージ極低回転域から湧き出るようなトルク感!しかもトップエンドまでフリクションを感じさせない一機に吹き上がる快感!

いまC8に搭載されているOHV V8エンジンは最先端の最新式だが間違いなくあの時のV8の血を引いている。今回の試乗でも極低回転域から湧き出るようなトルク感!しかもトップエンドまでフリクションを感じさせない一機に吹き上がる快感!

スモールブロックと呼ばれているのはボアピッチ(各気筒間の距離)を短くしてエンジンの全長を短くしているから。しかもドライサンプのオイル潤滑方式を採用。オーソドックスなウェットサンプだとオイルパンが縦に長いからエンジンの搭載位置を下げられない。つまりドライサンプにする意味はコーナリング中のオイルの片寄りを防止する目的と、この搭載位置を可能な限り下げて低重心化することなのだ。しかもOHVはDOHCと異なりシリンダーヘッドに複雑なカムシャフト機構を必要としない。DOHCはシリンダーヘッドまわりの部品点数が増えエンジン高が高くなってしまうことと、その複雑機構によるフリクションロスもOHVに比べてはるかに大きいのだ。ちなみにC7までのフロントエンジンコルベットはOHVだからあの低いノーズシルエットが可能だったのだ。しかしミドシップとなったC8でもドライサンプ式を採用しているのは低重心化に他ならない。つまりコーナリング性能の追求だ。

病みつきになりそうなC8のドライブフィール

C8を初めてドライブしたとき、このクルマのシャシーはカーボン製だろうと思った。それくらいボディー剛性が高く感じられたのだ。ところが実はアルミ製だったということに驚いた。ライバルともいえるフェラーリやランボルギーニ、さらにマクラーレンなどはカーボンコンポジットを採用している。

F1やルマンカーのようなレーシングカーは極限性能を追求するマシンなので土台となるボディーは限りなく堅固な方が都合がよい。その方が作用点となるサスペンションのハブのジオメトリー変化を正確にデザインできるから。これによってタイヤの接地面を正確にマネージメントできるのだ。だから支点となるボディーの捩じれなど変動は好ましくない。

しかしC8はあくまでスーパースポーツカーであってレーシングカーではない。ボクが感じた超剛性感でも金属である限り必ず捩じれが発生している。そのわずかな捩じれがどこで起きているのかは感知できないが、人の持つ動物的な五感に何かを与えて、そのフィーリングに病みつきなってしまう。たとえそれが街中を流すように走っていてもだ。C8をドライブしているとこのような不思議な感覚になる。

車両イメージC8を初めてドライブしたとき、このクルマのシャシーはカーボン製だろうと思った。それくらいボディー剛性が高く感じられたのだ。

熟成されたマグネライドサスペンションも素晴らしい

また、ドライブモードによって瞬時に変化するマグネライドのサスペンションも実によくしつけられている。

ダンパーのオイルに金属粉を混ぜ電気磁石のオリフィスで減衰力をコントロールするマグネライド。このシステムはキャデラックがまだFFだったころに乗り心地とハンドリングを確保するために当時GMの子会社だったデルファイが開発したものだった。この画期的なアイデアは後にC5でGTカーでのルマン制覇に情熱を燃やしていたコルベット開発陣にも託された。

今から約20年前の2002年のルマン24時間。ボクはGMからのお誘いでフランスへと飛んだ。目的はレース観戦なのだが、メインはコルベットC5の50thアニバーサリーモデルの試乗。なんとパリからルマン24時間が開催されるサルテサーキットへの往復をC5 50thアニバーサリーモデルを足にするという試乗会だったのだ。そしてこのモデルにコルベットとして初めてマグネティックライドコントロールダンパーが装着されていたのだ。

その試乗会でのプレゼンテーションではマグネライドの説明をするために小さな注射器を2本パイプで繋ぎ、注射器の中には金属粉が混ざったオイルが入っていた。片方の注射器を押すともう片方の注射器にオイルが移動してピストンが戻る。反対も同じように。そこで小さな磁石を2つの注射器の繋目のパイプに当てるとピストンを押しても引いても全く動かなくなる。これがマグネライドの正体で、これを電磁的にコントロールすることでこれまでのダンパーにないリアルタイムの減衰力コントロールができるのだという。

レース観戦も楽しかったけれどもC5で移動するフランスの田舎道も素晴らしい体験だった。なにせフランスの田舎道は道幅がとても狭く、C5だと対向車とすれ違うたびにギリギリ。でもマグネライドを装着したC5のハンドリングと乗り心地は最高で楽しかったことしか記憶にない。

ところで今年2023年にはC8 70thアニバーサリーエディションがリリースされるという。注目なのはZ06にも70thアニバーサリーモデルが設定される予定だという。個人的には是非試乗してみたいと思う。楽しみであるとともに是非試乗してみたい。

実用性の高さはそのままに、スポーツ性が驚くほど進化したC8

今回は主に市街地におけるC8の試乗だったけれども、ちょっとコンビニまでという感じに手軽な足にもなるC8。実はボク自身2006年に1年間という長期試乗でC6を足にしていたことがある。試乗会に行くにもスーパーに行くにもC6はオールマイティーなスポーツカーだった。しかも高速道路ではわずか1600rpmほどで100km/h巡行。空力が良いから燃費も驚くほど優秀だった。その実用性はそのままC8に受け継がれ、スポーツ性は驚くほど進化しているのだ。

車両イメージ

【プロフィール】

松田秀士 (マツダ ヒデシ) / レーシングドライバー兼自動車評論家

1954年(昭和29年)12月22日 高知県に生まれ大阪で育つ。浄土真宗本願寺派 僧侶。小型船舶1級免許所持。
ビートたけしの運転手から28歳でプロレーサーを目指し、シビックレースを皮切りに、F3、F3000、グループCやグループAなど、ツーリングカーからフォーミュラカーまであらゆるカテゴリーで活躍。

1994年、念願のINDY500に参戦。1996年には当時日本人最高位となる8位でフィニッシュを果たす。またスーパーGTでは100戦以上出場したグレーテッドドライバー。

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