文/S.Hiramatsu
筆者は週末にミニカーを求めてリサイクルショップへ行くことが、ほとんど日課のようになってしまっています。そんな中でも記憶に残るような飛び抜けた存在感を放つミニカーを見つけました。これを購入したのは学生時代で、大学のデスクの上にいつも置いて、作業のお供にしていました。そんな個人的な思い出もあるこのミニカーの魅力は、なんといってもレトロで愛らしいデザイン。ぜひご覧いただきたく思い、紹介いたします。
このミニカーのモデルとなったのは1939年型シボレー・マスター・デラックス。当時画期的であった流線型のボディは、その美しさで人々を魅了し、空力性能の高さも示唆していました。戦前のアメリカを代表する名車の一つであり、この時代の文化を表現するモチーフとして現在でも人気の高い車種となっています。当時はフェンダーにボリュームを持たせるデザインが台頭し、「ボディ・フロントフェンダー・リアフェンダー」という明確な3ボリュームの立体が有機的なラインを描いて組み合わさる、大胆かつ優雅な姿が魅力的です。自動車のトレンドは極めて合理的な実用性重視の時代から、スピードへの憧れを体現する時代へ。技術一点張りだった自動車にもデザインのトレンドが発生し、各社ボディの装飾や造形に明確な意思を持ち始めたのが30年代でした。そのトレンドの成熟期でもある1939年のシボレー・マスターは、まさにこの時代の最先端を体現したモデルだったのです。
この記事を読んでくださる皆さんの中でも、「DAYS GONE」という名前に聞き馴染みのあるという方は少ないかもしれません。DAYS GONEはイギリスの「Lledo」(レド)社が製造していたミニカーのブランドであり、1920〜1950年代のクラシックカーをモチーフにしています。
Jack Odell氏によって立ち上げられたLledo社は、彼の苗字「Odell」を逆に読んだ名が由来です。彼はまた、イギリスの有名ミニカーブランド「マッチボックス」の生みの親でもありました。「マッチボックス」を所有していたレズニー社が倒産したのち、かつての古き良き車両を丁寧に再現するという哲学のもと、Lledo社は誕生しました。ブランド名「DAYS GONE」の意味するところは「過ぎ去りし日々」です。
この時代のミニカーともなると流石に入手は困難かと思いきや、実は状態の良い中古品がまだまだ流通しています。というのも、モチーフになった車両こそ20〜50年代のクラシックカーですが、「DAYS GONE」のブランド発足は1983年なのです。もちろん古いものではありますが、当時モノのミニカーを見つけるのが不可能に近い戦前のクルマたちを手に取れる存在として、「DAYS GONE」は貴重な存在です。Odell氏が過去を丁寧に紡ぎ返したように、私たちもまたこれらのミニカーを通じて、戦前のクルマたちの活気に思いを馳せることができるわけです。
その魅力は外観全体から伝わってくる、古き良き時代の面影。80年代ともなると、既に「ホットウィール」「マジョレット」そして「トミカ」といった多くのダイキャストミニカーが進化を見せた時代でもあります。そんな中、「DAYS GONE」は古い車を古い表現でリリースすることを貫いた貴重なブランドです。金属のカタマリがずっしりと感じられる大きめのサイズ感と、窓ガラスのないシンプルなボディ、つるりとした質感のディッシュホイール、メッキで彩られたライトやグリルなどなど、時代と逆行するような表現の数々は当時としても異質なものだったことでしょう。
そんな「DAYS GONE」のミニカーは時々リサイクルショップで見つけることができます。ミニカーコーナーにあることもあれば、ヨーロッパのアンティーク雑貨に紛れていることもしばしば。いわゆる「スケールモデル」とは違う、インテリアとして飾りたくなるような魅力が非常に強いのが特徴です。
メーカー
Lledo
ブランド
DAYS GONE
発売年
不明(1990年初頭頃〜)
メーカー本拠地
イギリス
製造国
イギリス
今回紹介するのはイギリスのミニカーブランドからリリースされたものとしては珍しい、アメ車のミニカーです。このカラーリングの発売年は特定が困難ですが、1939年型シボレー・マスター・デラックスをモチーフとしたモデルが発売されたのは1990年代初頭頃のようです。その中でもひときわ色彩が華やかな「イエローキャブ」仕様で、レトロかつポップな独特の世界観が目を惹く一台です。
一目でクラシックカーだとわかる、特徴的なボディ構成。先の尖ったボンネットに、ボリューミーなフェンダーの立体が融合する独特な形状は、1930年代を生きた人々にとっては非常に先進的に映ったことでしょう。馬車から車へ移り、車ならではのデザイン言語が明確になり始めた時期。自動車の存在が生活の一部になった時代がさらに豊かさを求めた、活気のある空気感を纏っています。
リアも曲線的で美しい立体を描き出しています。フェンダーのボリュームは今でこそボディと別物にも見えますが、当時としてはかなり「一体感」の強いものだったと推察できます。というのも、かつてはハコのボディに対して曲げた板がタイヤの上あたりについている、という構成が一般的だったからです。それに比べたら、全ての面が曲面のつながりで構成されているということが既に「新しい」造形だったわけです。
サイドから見ても、そのシルエットは非常に親しみやすく可愛らしいものです。一目でクラシックカーだとわかる特徴的なフェンダーのラインがアイコニックな魅力を生み出しています。
メッキの施された樹脂パーツでできたヘッドライト、グリル、フロントバンパー。各パーツの存在感がクラシックカーの煌びやかな姿を想起させます。この年代の車両は塗装の剥げすらも味になりますね。
サイドはモールやドアヒンジといった造形物が全て立体的に表現されており、彩色がなくともしっかりと存在感を放ちます。ピラーからルーフにかけて金型の分割線が少し目立っているのも、当時の成形技術ならではの質感を感じられるポイントです。インパクトのある太字のレターと、強弱のある優雅な印象のロゴの重なりは不思議とマッチしており、古き良き時代を語っています。
また、タクシーでは見慣れない「MOUNTAIN TOURS」(山岳観光)の文字も確認できます。街を巡るイメージのあるイエローキャブにしては珍しいなぁ、と思っていましたが、ナンバープレートの地名にヒントがあるようです。
ナンバープレートの上部に書いてある「ALBERTA」はカナダのアルバータ州のことです。カナダで4番目に大きい州であり、日本の面積の約1.75倍の広さがあります。広大な土地には、政治や経済を動かす大都市と、険しく雄大なカナディアン・ロッキーを望む自然公園などが見られます。この州全体で大規模に運用されているタクシーであるとすれば、都市部と山岳部双方で活躍していることにも頷けます。土地柄を反映した、タクシーらしいディテールです。
ホイールはシンプルなディッシュタイプのもので、車体との統一感が魅力です。ワントーンで揃えられた明瞭な印象を作り上げます。
ルーフにも「YELLOW CABS」の文字が。タクシーでは行灯のような立体的な看板が主流だったようですが、ここでは印刷表現のみになっています。こうした細部の簡略化も、アンティーク雑貨としての味になっています。
底面には重厚感ある「DAYS GONE」のロゴがあしらわれ、イギリスのLledo社で製造されたことが記されています。クラシックカーならではのタイヤの細さもよくわかりますね。
今回ご紹介したモデルは、インテリアのアクセントにぴったりなアンティーク雑貨としての魅力もある、独特の世界観を持つ一台でした。「DAYS GONE」の名の通り、古き良き時代の空気感を纏っており、鮮やかな色彩と共に当時の活気を伝えています。
DAYS GONEは他にも商用車を中心とした様々なモデルが存在し、「コカ・コーラ」「スコッチウイスキー」「ロンドン交通局」など、当時ならではのアートを用いた広告が目を惹く魅力的なものばかり。アンティーク系のミニカーの中では手に入りやすいものも多いので、レトロ雑貨を集めている方にぜひ楽しんでいただきたいと感じています。棚の上や玄関先など、お気に入りの場所に置きたくなるミニカーです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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