文/S.Hiramatsu
ピックアップチョイスとしてご紹介するのは、「2024年モデル ポルシェ 718 ボクスター スタイルエディション」。6MTのダイレクトな操作感覚と、新しくもどこか懐かしい絶妙なカラーリング、その車体が誘うオープンスタイルの圧倒的な爽快感。ポルシェの歴史とも深い繋がりのあるミッドシップ・オープンカーの魅力に迫る。
今でこそポルシェというとやはりリアエンジンのイメージが強いが、実はミッドシップのスポーツカーはブランド誕生の歴史そのものである。それはレースでの勝利を純粋に追いかけるパフォーマンス・ブランドとしての歩みを映し出すものであった。
1948年、ポルシェのスポーツカーとして初めて公道走行認可を受けた「356 No.1ロードスター」はミッドシップのレイアウトをとり純粋にスポーツカーとしての理想を追求した、オープン仕様のプロトタイプモデル。これこそが創業者一族が求めていた車であったが、2号車以降の量産型モデルでは、やむを得ずリアエンジンへ変更された。当時フォルクスワーゲンと共同で量産車を製造していたポルシェは、リアエンジン車であるワーゲン・タイプⅠとエンジンやサスペンションなど多くのコンポーネントを共通化するという選択をしたためである。
ただ一台のプロトタイプでミッドシップオープンの歴史は早くも途絶えたのか。もちろんそんなことはない。550スパイダー(1954年)、そして今回紹介する車両の名前の由来ともなっている718(1957年)といった車両たちは、レース用モデルとして開発され、量産型のモデルとは別枠の存在としてサーキットを舞台に大いに活躍した。これらは軽量なボディと短いホイールベースが可能にした素早いコーナリングを武器に多くの勝利を掴み取った。そして小排気量のエンジンでありながら、大排気量の車両を打ち負かすことで知られ、「ジャイアントキラー」の異名で呼ばれることとなる。
黎明期のポルシェをスポーツブランドたらしめた存在こそ、ミッドシップのオープンモデルだったのだ。
1993年、今回紹介するモデル「ボクスター」のコンセプトカーがデトロイトでベールを脱いだ。その姿は先述の「ジャイアント・キラー」と呼ばれた車たちを現代の美学で描き出した唯一無二のスタイルであった。量産モデルのデビューは1996年のこと。当時経営的に苦しい状況にあったポルシェに、ボクスターは新たな幕開けを告げる存在となる。走りを純粋に追求したスポーツカーでありながら比較的手の届きやすい魅力が相まって、若年層を中心に大きな反響を呼んだ。。2016年からは車名に「718」を冠し、かつてのレースモデルへのオマージュが顕著なものとなった。
もはや伝統となりブランドとしての存在感が強まったリアエンジンの911に対し、ボクスターは軽やかで若々しい印象で新時代を予感させ、ポルシェのもう一つのあり方を提示していた。そして単に新規性があっただけでなく、むしろかつてサーキットを彩ったミッドシップレースカーのヘリテージを現代解釈し、量産車として落とし込んだ点を特筆すべきだろう。創業者一族が量産車でも求めたかった軽量なミッドシップオープンは、長い年月を経て実現しただけでなく、多くの人々の手にわたり、世界中で愛されるスポーツカーとなったのだ。
ここで紹介するのは2024年モデルの「スタイルエディション」。全長4,385mm×全幅1,800mm×全高1,280mmのボディに、2L4気筒ICターボエンジンを搭載している。最高出力300ps (220kW)、最大トルク38.7kg・m (380N・m)を発生させる。そしてスタイルエディションならではの魅力がカラーリングだ。ブラックとホワイトのコントラストパッケージが用意されており、この個体はブラック。サイドのステッカーをはじめ、ボディをスタイリッシュに仕立て上げる。さらにオプション選択が可能であったホイールのブラック塗装も功を奏し、インテークやミラー支柱などの各要素までもグラフィックとして昇華するような効果も生まれている。メタリックが控えめでソリッドな印象のボディ色をバッチリ締めるブラックのキレ。徹底的な2トーンのコントラストが、このモデルの美しさをより現代的に魅せる。
造形は往年の名車に倣ったシンプルかつ洗練されたラインで描き出される。オマージュ元である718は砲丸のようなボディに大きく迫り出したフェンダーが、当時のエアロダイナミズムを色濃く感じさせるものだった。現代のボクスターでは美しい立体構成はそのままに、水平基調の伸びやかなポルシェらしさと調和した現代的なスタイルを実現。
サイドは流れるようなルーフラインのクーペスタイルとは大きく変わり、潔いソフトトップで軽やかな印象。そしてエンジンやキャビンの要素がぎゅっと中央に収まる特徴的なレイアウトが一目でわかる。屋根を開ければ開放的な爽やかなスタイルに。そしてスタイルエディションならではのロゴステッカーが前後の伸びやかなストロークをより一層印象付ける。インテークも過激にならず上品にラインを収束するように配置され、ステッカーとの相性も抜群。ちなみにこのサイドステッカーは1967年のレースカーである「910」に用いられたのが最初であり、その後量産モデルにも取り入れられた。そのデザインは古くから大きく変わっておらず、ボディ色と相まってどこかレトロモダンな印象を感じられる要素となっている。
リアビューでは911などのモデルで見られた優雅さとはまた違う、アグレッシブな印象の造形となっている。ルーフラインがボディ後端まで続いていない分、リアボリュームの印象はフェンダーが決定づけており、足回りの踏ん張り感が一層強く感じられる。また、屋根を開けた時に外へ覗くシート後部のプロテクションバーやウィンドディフレクターの無骨さから、柔らかい曲面で構成されたボディに組み込まれた構造体としての魅力が垣間見える。
オプションで選択可能であったホイールのブラック塗装。サイドデカールと共に足回りを引き締める。奥行きのしっかり取られたメリハリある造形。対向4ピストンのブレーキを静かに誇示するかのようにあしらわれたホワイトレターも見逃せない。
インテリアはブラックレザーに加え、クレヨン(チョーク色)のステッチが差し色で入る。全体的にスポーティーかつスパルタンに仕上げられた車内に、ステッチは精度感をさらに助長する。そればかりか、クレヨンという絶妙なカラーにより少しの抜け感が加わり、スタイルエディションの名にふさわしい、毎日乗りこなせる印象に。
無骨な構造体を革で包んだような特徴的なステアリング。内側の骨格構造の存在を絶妙にほのめかすようなハリ感が秀逸なデザイン。また、ひときわ明るく見やすい計器類はモダンなレタリングが用いられた物理メーターで、下部にはデジタル表示も見られる。やりすぎないけれどモダナイズされた、スポーツモデルとしての質感を維持した魅力的な仕上がりだ。
センターにあるストップウォッチはサーキット走行時に自身の走行タイムを測ることのできる装備。レースモデルへの敬意を込めて多くの採用され、スポーツを示唆するファッションとしても魅力的なアイテムだ。
この車両は6速マニュアルモデル。ステッチでなぞられたコンソールにそびえるシフトレバーは削り出しアルミに彫り込まれたようなシフト表記で、素材感を効かせた仕上がり。
エアコンをはじめ各種ボタンは物理スイッチ。メッキや発光体など細かなあしらいが「コックピット感」につながっている。ポルシェのレターロゴは彫り込みのみで、さりげなく鎮座する。
シートはスポーツモデルらしく深く着座できるものとなっている。オープンカーならではの開放感が魅力的な上、このすぐ後ろにはエンジンがあるのだ。動力と一体になったような感覚でどこでも駆け抜けられるうえ、ショートホイールベースならではの旋回性能も相まって、身が軽くなるようなドライブになるはずだ。
ヘッドレストには非常に繊細な加工が施されたエンブレムが。使われているレザー素材そのものの厚みがダイレクトに伝わってくる。
ボディの中央寄りにエンジンを置くことで、通常エンジンが配置されるフロントのスペースも荷室となり、トランクが2箇所あることが大きな特徴。オープンカーとしては非常に大容量な荷室を確保しているといえる。
今回紹介したモデルは、ポルシェがスポーツブランドとして確立した黎明期の、走りに対する純粋なアプローチがモダンで若々しいスタイルの中に感じられる魅力的な一台であった。
リアエンジンとはまた違う、ポルシェの「もう一つの血統」を、スタイルエディションの特別な装いとともに。
ただブランドをステータスとして手の内に収めるだけではなく、ポルシェという文化そのものを、軽やかに身に纏うという感覚はいかにも現代的なものである。そしてその軽やかさの奥には、ミッドシップ・オープンが紡いできた歴史へ、そっと敬礼するような深みが宿っている。
この車両は、MITSUOKA 横浜ショールームで取り扱っております。詳細はお気軽にお問い合わせください。











トランク(フロント)
トランク(リア)