PICKUP CHOICE
“PICK UP CHOICE”1989年モデル ポルシェ944 ターボ

“PICK UP CHOICE”1989年モデル ポルシェ944 ターボ

文/S.Hiramatsu

ネオクラシックの魅力が詰まったFRポルシェ

車両イメージ

ピックアップチョイスとしてご紹介するのは、「1989年モデル ポルシェ 944 ターボ」。ネオクラシックな魅力が詰まったこのモデル、今となっては希少車種。今だからこそ乗りたい名車を、たっぷりと紹介!

ポルシェといえば、今や孤高の存在としてアイデンティティとなっているRRレイアウトがあまりにも有名だ。しかし、かつてはもっと手の届きやすいスポーツモデルとしてFRのモデルが投入されていた。初めて登場したFRモデル「924」はエンジンをフロントに、トランスミッションをリアに配置するトランスアクスル方式を採用することで、理想的な重量バランスを実現。エントリーモデルとして商業的に成功した。ただし924のエンジンは完全なポルシェ製ではなく、多くの部分がアウディ(フォルクスワーゲングループ)製であった。
1982年、924から基本レイアウトを継承しつつ、944が誕生。パフォーマンスに特化したメーカーであるポルシェは、このFRモデルのポテンシャルをぐんと引き上げた。その心臓部には、完全自社製の2.5L直列4気筒エンジンを搭載。この排気量に対して気筒数の少ない独特なエンジンは、ポルシェの上位モデル928に搭載されていたV8エンジンの半分をベースとして作られた。一つ一つのシリンダーが大きくなることでダイナミックなトルクを生み出し、より力強い走りを可能にした。

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今回紹介するモデルはターボモデルで、最高出力220 ps(162kw)、最大トルク21.4 kgm(210N・m)。豊かなトルクで低回転からしっかりと車を押し出し、安定感の強い走りを見せる。それをマニュアル操作で謳歌するドライビングは、ネオクラシックな車体と相まって現代だからこそ刺さる魅力。フロントサスペンションはストラット式、リアサスペンションにはセミトレーディングアームにトーションバーを組み合わせた独自の構造が組み込まれる。カーブで外に向きがちなタイヤを内向きに抑制することができ、アンダーステア(外に軌道が膨らんでしまう)を防ぐ。そこから生まれる安定性ははまさに「オン・ザ・レール」と呼べるもので、思い描いた通りのラインを綺麗にトレースしてくような心地よさがある。

このように誕生の経緯も内部の機構も唯一無二な944だが、今回取り上げた車両にはもう一つ大きな注目点がある。それは、ポルシェを日本で初めて輸入したことで知られる「ミツワ自動車」による正規輸入車であるということだ。ミツワ自動車はかつて高度経済成長期に事業を拡大し、ポルシェの輸入代理店として非常に大規模な事業を展開。国内のポルシェユーザー層を大幅に拡げることに貢献していた。ポルシェ正規輸入のパイオニアとして信頼を得ていたミツワ自動車の取扱モデルは「ミツワもの」と呼ばれ、基準を満たした信頼のおけるものとして高く評価された。今回取り上げたモデルもそんな「ミツワもの」の個体である。

車両イメージ
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この車両の顔まわりの一番のチャームポイントはリトラクタブルヘッドライト。消灯時は格納され姿を消すライトは、空力性能を少しでも高めるようノーズを低くするための工夫だ。消灯時は非常に洗練されたラインが通っており、クールな印象。フェンダーもタイヤにしっかり荷重がかかっているように見えるボリューム感で、スタンスが力強い。しかしひとたびお目々を開ければ、なんとも愛くるしい表情を見せ、親近感ある顔つきに。今の車にはないこの二面性に心打たれる人も多いのでは。

全体の造形に注目すると、エッジとしてシャープに折れたボディの中に丸くとられたアール(角感)の処理で、シンプルながら非常に緻密な面構成となっている。フェンダーのしっかりと張り出した造形は924と異なる点の一つ。よりワイドに見せる表現で、ターボ搭載の力強さや地面への接地感がよりダイレクトに伝わる。アール感の揃った美しいプレスラインはボディ側面へと抜け、フェンダーにつながり横方向の動きが非常に強いデザイン。911などいわゆるポルシェの代名詞と言われるようなデザインとはプロポーションからして異なる車だが、豊かな面やワイド表現といった要素をシンプルな美学で体現する思想はここにもしっかり流れていると言えるだろう。

ショルダーやボンネットが一続きの大きな流れで構成され、車両の下と上を分断しているようなプレスライン。このプレスより一段下にノーズの先端があるが、ここから車体の角に向かって切り上がるラインは他の要素より角が曲面的に処理されている。このわずかな面質の違いが光の反射の仕方を大きく変えることで、シャープさの中にも流麗さをしっかりと感じられる。フェンダーの張り出しもプレスラインのシャープさを保ちつつ面をコントロールすることで実現。車体全体のライン構成をシンプルに保ちながらも非常に豊かなリフレクション(映り込み)を見せている。

サイドビューで目を引くのは水平基調のボディにハリのあるショルダー、FRプロポーションを描く流麗なルーフ、この時代特有のサイドモール。他の多くのモデルたちでは見られないFRの典型的なプロポーションがポルシェの美学で具現化された姿は、944の大きな魅力。もちろん全体の美しさだけでなく細部にも語るべき要素は多い。例えばホイールアーチがほとんど垂直に切り立った面であるのに対し、ボディ中間部は下回りでぐっと内側に回り込む。これにより紡錘形状といわれる美しい車体のボリュームが表現でき、タイヤが外側で踏ん張ってるようにも見えメリハリがつく。さらにウインドウに目をやると、後部で切り上がった形状がフェンダーとの間に余白を作り、ここがボリューム表現と相まってリアに力強さを与えている。前から後ろに一貫して繋がる要素がほとんどでありながら、ノーズを薄く表現するフロントと、力強い塊で魅せるリア、というようにボリューム感の異なる表現が成立している点が面白いと感じた。

リアビューでは豊かなボリューム感や面質が強調され、洗練されたラインで構成された車体に潜む色気が垣間見える。リアはウインドウの面積が大きく、924より角度のついたウイングの下にまで回り込む。ウイングとボディの間にブラックアウトされた空間が生まれ、少し未来感あるビジュアルにも仕上がっている。ボンネットからサイドを経て一貫して通るショルダーはリアにも回り込み、この車を一周する重要なテーマ。これによりリアも一貫して水平基調で上品にまとまっている。テールライトはモールで均等に区切られたような、いい意味でかっちりと「お堅い」印象。さらに下部は覆うように設置されたスポイラー形状の上に樹脂製のバンパーガードが合わさり、リア全体を引き締めている。

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7本スポークのアルミホイール。ボルト部分は直接パンチで穴を開けたような非常にシンプルな表現だが、立体的な加工の施されたロゴとそれを囲む分割線と組み合わさることにより、精度感ある工業的な魅力で足元まで堅実に仕上げる。

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さらに魅力的なのがこのインテリア。アナログな魅力に溢れた樹脂部品、シンプルながらも精度は抜群なパーツの嵌合、そしてレトロさが際立つチェックのファブリック。もっとも、当時はレトロ表現でなくこれが新車のシートとしてふさわしいものであったのだ。どれも現代の車では味わうことのできない当時の風を纏っており、今を忙しなく生きる私たちをロマンで満たしてくれる空間。ペダルの金属剥き出しの機械感が暗いインパネと対比され一際目立ち、フロアマットの柄も落ち着きがありながらレーシーだ。

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コックピット周辺も素材は樹脂が中心。様々な素材感で質感を見せてくれる昨今の自動車に見慣れていると、少し殺風景にすら見えるかもしれない。けれど全ての要素を水平に統一するステアリング形状など当時としては未来的な表現だったはずであるし、メーター内の各表記レタリングも洗練されたものだ。中央の大きなホーン(クラクション)ボタンはそれだけで重要な構成要素となり、ポルシェのロゴをバチっと構えさせる台座形状となっている。加えてドイツ車の質実剛健さはよく知られているように、一つ一つのかっちりとした精度感であったり、無駄のないスイッチ類のレイアウトだったりと、今でも褪せない車としての根源とも言える魅力が詰まっている。

車両イメージ
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どこをとっても、今となっては操作体験としての価値になりつつあるアナログスイッチの魅力に溢れる。シフトノブの表記も単色で、彫り込み仕上げの非常にシンプルなもの。センターコンソール部はブラウンの差し色が入れられ、手をいつも置いておきたくなるナチュラルな印象に仕上がっている。

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リアシートにもチェック柄のファブリックが使用され、車内を統一している。今となっては素朴な印象もある姿の中に、どこか温かみを感じられるインテリアだ。こうした素材感強めの内部構成にレトロ調ファブリックといった構成は、現在ではアウトドア向けの車両のヒットにも重なり、軽く扱えるSUV系モデルのネオクラシックカスタムとして用いられることが多くなってきた。しかしそれらが体現している大もとの時代では、実はこうしたFRスポーツにも現代とは異なるテイストのインテリアが使われていた。落ち着いて乗れる魅力を備えたFRポルシェという、今では見られない当時ならではの姿だ。

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ボンネットを開けると、2.5L直列4気筒のエンジンを覗くことができ、「turbo」のレターも確認できる。重量のあるエンジンをできるだけ後方に配置し、車軸より後ろにエンジンを搭載するフロントミッドシップのレイアウトとなっている。トランスアクスル然り、重心をできるだけ中央にすることに注力され、スポーツカーとして非常に理にかなった理想的なレイアウト。トルクフルな走りとカーブでの安定性を実現し、ワインディングをどこまでも駆け抜けたくなるような運転そのものの楽しさを存分に味わえる。

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リアの大きなラゲッジスペースがあるのもFRポルシェならでは。大きなグラスエリアを開けると見える広くフラットな面には、荷物を安定して載せることが可能。前後で重量バランスを取るためリアにトランスミッションを積んでいる都合上、あまり深さはない。一方で走りのために便利機能を犠牲にしすぎることなく、ロングドライブ好きにも刺さるモデルであった。容量は約370L。

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シートを倒してさらに拡張することもでき、スポーツカーとしてはかなり広いラゲッジスペースを実現している。ネオクラシックスポーツモデルでありながら居住性や荷室確保という点でも充実したこのモデルは、トルクを活かした長距離ドライブをさらに快適で豊かなものにしてくれる。

今回ご紹介した車両は、ポルシェが生んだFRスポーツとしての魅力とネオクラシックな味わい深いディテールが組み合わさった個体。
このような平成初期を彩った車両はもう立派な「旧車」の仲間入りをしており、今後ますます価値の高まってくる存在だ。現在はラインナップにFRモデルは入っておらず、その存在感は時代を超えて増している。
当時の風を感じながら、トルクに裏付けされた走りで大人のドライブを。コーナーのたびに変わる景色に心躍る体験が、ますます輝かしく感じられるはずだ。

この車両はBUBU MITSUOKAさいたまショールームで取り扱っております。詳細はお気軽にお問い合わせください。

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