文/S.Hiramatsu
今回ご紹介するのは、「ホットウィール プレミアム ランチア ストラトス ゼロ」。まるで未来から来たようなこの車、実は70年代のコンセプトカーなんです。滅多にモデル化されることのないこの車が、令和の時代にまさかのホットウィール化。筆者のコレクションの中でも、ひときわ存在感を醸し出しております。
イタリアの自動車メーカーであるランチアは、戦前・戦後を通じて、常に高性能・高精度を求め続ける会社でした。その技術力はやがてラリーの舞台でも輝かしい活躍を見せ、モータースポーツとの結びつきが強まっていきました。
しかしこのような技術特化の車を作るのには莫大な資金がかかり、赤字が続いたランチアは経営危機に陥ってしまいます。そして1969年にはイタリアの自動車メーカー、フィアットの傘下に。当時のランチアに必要なのは「やっぱりランチアはすごい会社だったんだ!」と人々に思ってもらえるような、圧倒的な車でした。
そんな中、「ベルトーネ」という会社が「ストラトス・ゼロ」というコンセプトカーを発表しました。「成層圏」を意味する名を持ったこのモデルは1970年のトリノショーで、まさに宇宙からやってきたようなスタイリングを披露しました。
ベルトーネは自動車メーカーではなく、「カロッツェリア」という部類の会社。カーデザインやスタディモデルの制作、シャーシへの架装を自動車メーカーからの委託で行うことを中心としています。「カロッツェリア」は今や優れたデザインの代名詞になるほどの伝説的存在となっています。
ベルトーネがこのモデルを制作した背景には、フィアット傘下で新たな歩みを始めたランチアに「こんな車を一緒に作らないか?」と自社の技術力をアピールしたいという思いがありました。ランチア社から頼まれて作った車ではなく、いわばベルトーネからランチアへの「巨大なラブレター」のようなモデルだったのです。同社所属のマルチェロ・ガンディー二氏が手がけたデザインは、楔形(先端に行くにつれ、鋭く細くなっていく形状)の特徴的な極めて未来的な姿。当時のトリノショーでこの車を目の当たりにした多くの観衆に衝撃を与えます。その一方、あまりに現実離れした風貌で、まさか量産とは縁もないだろうとも思われていました。
しかし、このモデルは奇抜な姿をしながらも、既に走行が可能でした。しかもシャーシはクラッシュしたランチア・フルビアHF1600ラリーカーのもの。さらにランチア製の狭角V型4気筒エンジンがミッドシップレイアウトで搭載され、ラリーでモータースポーツに名を馳せたランチアへの敬意と情熱に溢れた一作だったのです。
この車両をもとに、ランチアでは、ショートホイールベースにミッドシップレイアウトを採用した新生ランチアを象徴するような車を生産することが決まりました。ベルトーネからの基本コンセプトや「ストラトス」の名を引き継いだこのマシンはラリーで勝つことを目的に作られ、心臓部にはフェラーリ・ディーノ246GTのV6エンジンを横置きで配置。徹底的に勝利を見据えて開発されたストラトスは、世界ラリー選手権(WRC)で通算18勝という肩書きを持つ唯一無二のスーパーカーとなりました。
今やランチアといえばストラトス、という圧倒的知名度を誇るスーパーカー。ランチアにとっての新たな車の必要性とベルトーネの描いた未来が完璧に合致して誕生した奇跡の一台といえるでしょう。
随分と前置きが長くなりましたが、ホットウィールの魅力をお伝えします。今回紹介するものは「ホットウィール・プレミアム」という、ちょっとリッチな作りのモデルです。金属製のシャーシに「リアルライダー」と呼ばれるゴムタイヤを履いているのが最大の特徴で、手に持った時の重量感が魅力です。
さらに豊富なシリーズ展開も魅力で、「ホットウィール・プレミアム」の中には大量のシリーズが内包されています。全部集め出すと本当にキリがないほどですが、今回紹介するのは「カーカルチャー」シリーズの「ハンマードロップ」アソートのもの。英語の慣用句「Drop the hammer」からきていると思われ、モータースポーツにおけるアクセルを急激に踏み込むイメージや猛烈な加速を表します。また、ハンマーを勢いよく下す動作から、物事を一気に決断するというニュアンスもあるようで、今回のような思い切ったデザインのコンセプトカーや量産に繋げてしまった衝撃などとも通じる部分を感じます。
このようにアソート名一つとっても、車に関する様々な側面に焦点を当て、それが明確なテーマになっているのが面白いポイントです。皆さんもホットウィールプレミアムを手にするときには、ぜひアソート名にも注目してみてくださいね。
メーカー
マテル
ブランド
ホットウィール
発売年
2025
メーカー本拠地
アメリカ
製造国
タイ
「ハンマードロップ」シリーズにおける注目車種でもあったストラトス・ゼロは、ミニカーになると一見シンプルに見えますが、プロポーションの個性やグラフィックの異質さはよりダイレクトに伝わってくるように思えます。
フロントは実に薄く、かなり前方までキャビンが伸びています。ガラスエリアは上に大きく開くキャノピーのような作りになっており、正面の開口から半ば強引に乗り込むという特殊な構成になっています。フロントにエンジンが乗っていないからこそできる構成で、ミッドシップであることをやりすぎなまでに表現した個性が光ります。ちなみに量産されたストラトスでは、ドアは一般的なサイド2枚のものになりました。
リアはスリットの入った三角形のグラフィックが特徴的。大きなリアタイヤの上部を覆うフェンダーアーチも個性的な魅力。そして何より、前から後ろへ流れる鋭いエッジの潔さがキレキレな未来感は今見ても斬新すぎるデザインですね。
サイドは非常に綺麗な楔形のラインで、中心を通るエッジが尻上がりの軸を通しています。リアのフェンダーがタイヤに被っていることで従来の車らしい下回りとは一線を画した造形となっており、ボディ全体で美しい楔形を描き出します。実車の全高はわずか84cmという驚異的な低さで、ミニカーとして手に取っても極端に薄く感じます。
フロントガラスの周りを囲うモールド(彫り込み線)は、ドアとボディの分割線です。ホットウィールでは開閉こそしないですが、実車でヒンジの役割を持つ上部の突起形状はモールドで再現されています。
ヘッドライトはフロント先端のわずかな面に横一文字で並んでいます。今のような薄型LEDなどはもちろんない時代なので、小さな電球を大量に並べることで実現していました。ホットウィールではデジタル印刷によりユニットの密集感が丁寧に再現されています。
初めてこの車を知った時には、サイドウインドはどこにあるんだろう、と思ったものですが、なんとこの黒い部分がサイドウインドでした。これで人の座れるレイアウトが保てるのかと甚だ疑問ですが、ほとんど寝るような体制になることで搭乗は実現したようです。
エッジの立つ鋭利な印象のあるこの車ですが、このような角度から見るとフェンダーの豊かな曲面が美しいシルエットを描き出します。一見シンプルな形状でも、複雑な曲面の集合体であることがわかります。
リアの三角形のグラフィックはエンジンフードです。きわめて直線的な要素であり、ウェッジシェイプのボディの中でも一際異彩を放っています。いくつもの矩形の重なりで構成され、その境界はスリットになっているのが特徴。右側の辺にヒンジ機構が搭載されており、斜め上に開く様子は個性的なビジュアルを作り出していました。
ボディの楔形を形成するラインが大胆に通るリアフェンダー。車体全体のラインのまとまりに大きく貢献するとともに、大きなタイヤが車体から覗く未来的なビジュアルを作り上げます。
リアは流れる形状を切り落とした断面のようなボディにメッシュが。もはやリアボディのほとんどがグリルだといえます。下周りはミッドシップのレイアウトで配置されたパワートレインが外側にむき出しの無骨なデザイン。フロントから見たときの鋭く未来的な鼻先に対し、リアに回るとガソリン臭さが一気に露呈するギャップから、車のかっこいいところを凝縮したようなロマンを感じずにはいられません。当時は量産されるわけがないとも思われていましたが、ラリー史に伝説を残す車両として体現。ロマンはただの幻とはならなかったのです。
シャーシには2024年の金型であることやタイ製の表記が。MR駆動方式であることの表現にもつながる、リアタイヤ周辺のゴリゴリとした部品造形にも注目です。
今回ご紹介したモデルは、卓越した技術を誇るランチアと個性的で美しい車を現実にするベルトーネの見事なタッグにより生まれた伝説のコンセプトカーでした。
70年代の伝説のコンセプトカーが今の技術によって丁寧にミニカー化され、こうして手元で楽しめるのは本当にありがたいことです。同時に、こんな車両までラインナップしてしまうホットウィールの振れ幅にはただただ驚いてしまいます。
そして何より、「これまでの自動車」の概念を超えてくるワクワク感は、ミニカーとの相性も抜群。一般道では見ることのできないコンセプトカーのミニカー、もっと増えてほしいなぁ、なんて思っております。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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