
文/S.Hiramatsu
今回ご紹介するのは、「マジョレット ルノー アルピーヌ A110-50」です。動きの激しく艶めかしい、唯一無二の個性を纏ったボディ造形が光ります。
突然ですが、みなさんは「ダイキャストハンティング」をご存知でしょうか?これを読んでくださるミニカー好きのあなたなら、もしかしたら聞き慣れた言葉かもしれませんね。これはミニカーで主に使われている金属材質「ダイキャスト」と捜すことを意味する「ハンティング」を組み合わせた言葉で、海外のミニカー愛好家から徐々に広がっていったワードです。自分に刺さるミニカーを探し求めて量販店やリサイクルショップで宝探しすることを示し、もちろん、筆者もダイキャストハンティングが大好きなうちの一人です。
その醍醐味の一つは、下調べなしで手に取った一台に、ものすごく興味を惹かれることがあること。特にリサイクルショップは何を売っているかなんて当然、行ってみないと分かりません。
先日もダイキャストハンティングをしていた筆者は、あるリサイクルショップでスーパーカーらしきミニカーを見つけました。そしてボディ造形を見た時「なんだこれ!」と走った衝撃。今見ても新鮮なその姿、まさか10年以上前の車両だとは思いもせずに。そしてこの一台に込められたルノーやアルピーヌの想いを辿っていくと、この個体が少し変わったアプローチで、それでいてミニカーらしい表現に富んだ魅力的なものであることがわかってきました。
ミニカーとしての名称表記は 「ルノー アルピーヌ A110-50」。
これはルノーが持つハイパフォーマンスブランド「アルピーヌ」の名を背負って登場したプロトタイプモデルです。元々は別会社だったアルピーヌは1973年にルノー傘下となり、モータースポーツを中心とした事業を専門としています。
A110-50は、アルピーヌブランド50周年を記念して2012年のモナコGPで世界初公開され、歴史あるアルピーヌの次世代を示唆するモデルとして注目が集まりました。そのデザインの発表にとどまらず、モンテカルロの市街地コースをデモ走行として駆け抜け、レースファンを沸かせる存在となったのです。さらに英国で開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2012では、標高の高低差が激しいヒルクライムと呼ばれるコースを疾走。純レース仕様としてのパフォーマンスを魅せました。
抑揚のある立体でレースシーンの躍動感を想像させるばかりでなく、ミッドシップレイアウトで日産製の3.5L V6エンジンを搭載し、最高出力は400ps。走行可能という点で他の一般的なコンセプトカーと大きく異なっているうえ、その性能は非常に優れたものでした。メガーヌ・トロフィーのシャーシを採用し、ボディはカーボンファイバー製の超軽量なもの。そこに伝統のブルーを纏い、リアには大きなGTウイングが装備されていました。
この個体もマジョレットによりモデル化されていますが、今回ご紹介のものは一風変わっています。ボディカラーはレッド、リアウイングはありません。これは一体何を意味するのでしょうか。
それは2010年のモンディアル・ド・ロトモビルでワールドプレミアとなった、ルノーの「デジール」というコンセプトモデルのオマージュです。この車両は2010年代のルノーデザインの方向性を示唆する重要なコンセプトモデルであり、ルノーに入社したばかりのローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏が入社後初めて手がけたモデルでした。
アッカー氏はフォードやマツダといった様々なバックグラウンドを持つメーカーでその腕をふるい、現在はルノー・グループのチーフデザインオフィサーとして活躍されています。
デジールはルーフの最も高い位置がおおよそボディの中心にくるという、典型的なミッドシップスーパーカーのシルエットを持っています。しかしボディ面の造形は非常に特殊で、抑揚のある曲面で構成されたダイナミックな光の移ろいが特徴的でした。全てを曲線で描き出せるようなこの造形こそが、先述の高性能なコンセプトカー、アルピーヌ・A110-50へと受け継がれていったのです。そればかりか、ルノーブランド全体のデザインの方向性を決定づけるものとして重要な役割を果たし、2010年代のルノーを導いた指針のような存在でもありました。なお、アルピーヌA110-50がガソリンモデルだったのに対し、元になったデジールはEVとしてのコンセプトカーでした。
この象徴的なコンセプトモデルは当時のルノーのデザイン戦略「サイクル・オブ・ライフ」を反映させた一台です。冒険をする、家族を得る、働く、といった様々なステージで人生を表現していました。デジールは人生の1番目のステージである「LOVE」をテーマとし、官能的なスタイリングを追求するルノーの情熱をボディ造形やカラーの色気と共に表現しています。そして何より、そのインパクトある存在感は「恋に落ちる瞬間」を想起させるものでした。
さらに「自然界には純粋な直線は存在しない」というアッカー氏の言葉が表すように、人と自然の調和と融合を目指したものでもあったのです。
今回ご紹介するミニカーは、アルピーヌA110-50の金型をベースにデジールをオマージュしたカラーリングを施した、特別なバリエーション。初公開時にそのコンセプトと造形で衝撃を与えたデジール、さらに進化した姿と走行性能で人々を魅了したアルピーヌ・A110-50の魅力が融合した姿はまさにミニカーならでは。ぜひご一緒に楽しんでいただければ幸いです。
メーカー
シンバ・ディッキー・グループ
ブランド
マジョレット
発売年
2016
メーカー本拠地
フランス(現ブランド保有メーカー:ドイツ)
製造国
タイ
筆者のお気に入りポイント
ボディサイドの艶めかしい抑揚
フロントビューはアルピーヌブランド伝統のセンターフォグが未来的な処理であしらわれています。デジールでは車体下部に一つの円形ユニットとして配置されていましたが、アルピーヌA 110-50ではグリルを跨いだ細型の発光ユニットになりました。細いライトは立体的な造形の上にシルバーカラーで彩色され、非常に繊細な作り。この繊細さが、コンセプトカーらしい一歩先行く印象を生んでいます。ウインドがクリアレッドなのも特徴的です。ボディ全体を一つの彫刻として捉えるようなこの表現は、コンセプトカーらしさをより強調する特別感ある仕様です。
サイドはフェンダーの大きな膨らみやドア中央の造形が特徴的。やや右肩上がりで前進感を助長するボディの分割線は、実際には起伏ある立体の上を走っています。そのため上から見ると曲がって見えますが、真横から見ると一本の綺麗な線となって現れます。インテークのシルバー部分で凸形状が入っているのも嵌合形状が強調されて工業製品としての精密感が感じられますね。
もっとも特徴的なのは、やはりこの独特な起伏を持つサイドボディの形状ではないでしょうか。スポーツカーらしくアグレッシブなボディの中には光を拾う面と影のできる面が連続的に現れ、それらはまるで削り出した後、丹念に磨かれたような質感を伴っています。メタリックカラーと分厚いクリアコートも相まって、どこか液体金属のような流動性すら感じます。ミニカーとしては非常に細いミラー表現にも注目。別パーツでなくボディと一体整形のダイキャスト製というのは特筆すべき点でしょう。ミニカーが一気にクルマらしくなる重要なディテールです。
アルピーヌ110-50には見られないドットパターンは、デジールの特徴をオマージュしたマジョレットならではの表現です。ボディにメッシュのような細かい穴が空いている表現は2010年前後のコンセプトカーでよく見られた表現でした。
サイズ感としてはドットパターン全体でも爪にすっぽり収まるほど小さなものに仕上がっています。これを印刷で量産する技術は本当にすごいもので、実際に手に取るとかなりの密度・情報量を感じました。
リアは断面から中身がのぞいているような造形になっています。今でこそ、この表現自体は多くの車種で見るようになりましたが、2010年という時代を考えるとかなり先を行っていたものだったのでしょう。ブラックアウトされた奥行きのある形状は曲面で構成されており、全体的に暗くミステリアスな雰囲気を醸し出します。奥には左右それぞれマフラーの形状が再現されています。
腹下に向かってえぐれるようなディフューザーは、シャーシやサイドスカートと一体の樹脂パーツとなっていました。スーパーカーらしいスピード感を演出するディフューザー付近でボディの形状も絞られ、別体としての存在感が非常に力強く感じられます。ルノーのロゴも非常に小さいサイズながら、立体的に起こされた上に彩色で表現。
リアで目を引くのはクリアレッドに穴が空いているこちら。アルピーヌA110-50ではクリアガラスでしたが、デジールはこの部分はボディ色であったためこのような表現になっています。クリアパーツの厚み分の断面が光を乱反射し、写真で見る以上にキラキラと輝いてとても綺麗。形状こそ異なっていますが、オマージュ元であるデジールの圧倒的な「コンセプトカー感」に対する一つの表現として非常に魅力的です。
リアフェンダーのボリュームがよくわかる画角。キャビンがぎゅっと絞られ、フェンダー上で光を拾う大きな面で生まれるグラデーションは色気を伴っています。デジールを意識したウイングレスの姿は、ルーフラインをすっきりと見せてくれるだけでなく、ボディに埋め込まれるように配置された機能部品の魅力や造形が醸し出す色気をダイレクトに伝えます。
今回ご紹介したモデルは、走行可能プロトタイプのバリエーションとして、造形の元となったコンセプトモデルへのオマージュをミニカーならではの表現とともに楽しめる、非常にユニークな一台でした。
筆者としても、ミニカー探しの旅「ダイキャストハンティング」の楽しさを改めて実感するとともに、おもちゃだからこその自由な発想で実現する車のカタチがあるのだと感じました。これを読んでくださったみなさんにもときめく一台との出会いがありますように。それは奥深い車の世界への手がかりになるかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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