文/S.Hiramatsu
今回紹介するのは、「ウェリー ロンドンバス」。イギリス生まれの真っ赤な2階建てバスが、小さなミニチュアになりました。
都心を中心に、走る広告媒体として使われていたり、車内でアフターヌーンティーができる体験ツアーがあったりと、日本国内でも脚光を浴びることが多くなっているロンドンバス。レトロで可愛らしい顔つき、角の丸いシルエット、2階建てのアイコニックな存在感は、現代だからこそ人々にまっすぐ届く魅力を備えています。どんな広告を載せても、「ロンドンバスを見た」という出来事が何より大きな記憶になるし、ただでさえ特別なアフタヌーンティーには優雅な本場の風をもたらします。人々を惹きつけてやまないロンドンバスの魅力に、筆者も思わずミニカーを手に取ってしまいました。
ロンドンの車といえば、真っ赤な2階建バス。この文化的アイコンはどのようにして生まれたものなのでしょう。
端的にいうと、第一次産業革命の影響で乗合・2階建になった馬車が、第二次産業革命でエンジンを積んだという変遷になります。そして赤いボディカラーや特徴的なデザインとともに現代でもロンドンを象徴する重要なモチーフとなっています。
第一次産業革命がロンドンの都市交通に与えた影響として大きなポイントは、「その技術が画期的な乗合自動車を直接作ったわけではない」ということです。鉄道において変革をもたらした蒸気機関も、その大きさや重さといった制約で、街中の馬車に代わる存在とはなりませんでした。むしろ産業革命の技術的側面よりも、それを背景とした都市の巨大化という社会的背景が馬車にとっては重要でした。移動人口の増えた都市で生まれたのは乗合いという仕組みそのものと2階建てという構造です。乗合馬車の2階部分に屋根はなく、室内空間を有する一階部分と比べ快適性には劣ります。しかしその分運賃は安く、労働階級者も馬車を使う機会が大幅に増えていきました。
第二次産業革命は19世紀後半に起こり、バスにとってもまさに技術的な革命です。内燃機関や電気などの機械技術が成熟し、長らく都市部の道路交通においての要だった馬が、ついに機械に置き換わりました。ここでは産業がもたらした技術が直接、車にもたらされたことが大きなトピックです。1910年代にはエンジンで動くバスが主流になっていきます。
現在もロンドンといえば、のイメージとして筆頭の「真っ赤な車体」は、当時2階建てバス最大手だった「LGOC」という会社が買収した新興メーカー「ヴァンガード」社のものです。LGOCが事実上のロンドンにおけるバス事業独占という状況になったのち、ロンドンの交通事業は交通局に統合され、ロンドンバス=赤のイメージが一層定着していきました。
戦後はボディの成形技術が滑らかなボディの量産を可能にし、丸みを帯びた親しみやすさはバスをより人々に身近な存在へと昇華させました。馬車の時代から続く2階建ての伝統を残しながら、50年代の工業デザインとして再解釈された車両「AEC ルートマスター」は、まさに私たちが想像するあの「ロンドンバス」そのものです。その後も新型車両が導入されながら、赤い2階建てバスはロンドンのアイコン的存在として活躍しています。
エンジンが乗るよりも先に2階建ての個性が確立され、現在まで実に200年近くの歴史を持つロンドンバス。産業と都市の変遷を色濃く反映しながらロンドンの街中を駆け続けるバスは、歴史を映し出す鏡となりました。そして観光客をはじめ多くの人々とともに今日も1ページを紡いでいるのです。
今回紹介するミニカーのメーカーは「WELLY」(ウェリー)です。香港を拠点とするメーカーであり、手頃な価格と高いクオリティが魅力。サイズ展開も幅広く、同一車種でも様々なスケールで展開されています。日本国内においては、トイザらスでリパッケージ品が展開されているほか、ミニカーメーカーである京商でも取り扱いがあり、比較的手に取りやすいものとなっています。かつては100円ショップでさえ取り扱いがあったこともあり、クオリティに対する手頃さはミニカーブランドの中でも頭ひとつ抜けている印象です。ロンドンバスにおいては「London Bus and Taxi Collection」の中の一つであり、ロンドンタクシーとともに3インチと5インチのモデルで展開されています。今回紹介するものは手頃なサイズである3インチのロンドンバスです。
メーカー
WELLY
ブランド
WELLY
発売年
不明(初期ロット1990年代、紹介のモデルは2010年頃)
メーカー本拠地
香港
製造国
中国
ミニカーのモデル名は「LONDON BUS」となっていますが、その外装デザインは1950年形「AEC ルートマスター」の特徴を色濃く反映しています。
これこそ、皆に愛される最も象徴的であろうロンドンバスの姿ではないでしょうか。2回建の構造はもちろんのこと、アーチを描くルーフ、左右非対称なフロント造形、ドアのない昇降口などなど、普通のバスとは少し違う、個性的なポイントがたくさん。見ているだけで、ちょっと遠いところにトリップしたような気分にさせてくれます。
リアから見ても、心地よくカーブで描かれたラインが特徴的。まるで毎日使いたくなるオーブントースターのような、どこか温かみのある愛嬌ある姿がたまりません。このボディは当時の航空機技術が応用されており、アルミを叩き出すなどして、軽量かつ美しい、当時としては先進的なバスのあり方を示唆していました。
サイドから見ると赤いボディに大きく描かれた広告のコピーが目を惹きます。実はこの広告もまた、ロンドンバスにおいて重要なトピックです。19世紀の馬車の時代から2階スペースを活用し、動く広告塔の先駆けとして一際目立つ存在感を放ちました。二度の産業革命や50年代の工業の発達による人々の豊かさを象徴するかのように、日用品やエンターテイメントの広告が、いつも煌びやかに高々と掲載されていました。やがて真っ赤なボディと華やかな広告は、それ自体が都市景観の一部となりロンドンの街に記憶として定着していきます。今や「広告を纏う赤いバス」はロンドンのアイコンとして切っても切り離せない存在となっています。
このミニカー、ディテールにもこだわりが満載。きらりと輝くグリルは別パーツで、メッシュも丁寧に再現されています。当時の特徴的なデザインの一つであった左右非対称な造形もしっかり再現されています。実車ではボンネットの左半分だけが開くというかなり特殊なものになっていたようです。空間効率をできるだけ保つために運転席をギリギリまで前に出しているわけですが、後付けで被さったようなユニークなアンバランスさが可愛らしいですね。
2階部分のちょっとズレた表示版のステッカーは、おもちゃらしいご愛嬌です。
ロンドンバスのもう一つの大きな特徴は、リアの乗降部に窓ガラスがないことです。バスが速度を緩めた際にひょいと飛び乗ったり降りたりできました。そんな時に掴める便利な支柱が金属製のポールで表現されています。常に立ち作業で切符を切っていた車掌さんにとってもこれは重要なものでした。忙しなくも活気ある、当時のロンドン市民の声が聞こえてきそう。ちょっとした所の質感により、一気に実車感が増しているポイントです。
そしてすぐ横には階段が。ちゃんと上まで繋がっています。手のひらに乗るサイズのミニカーでここまで再現されているのはなかなか見応えがあります。パーツの形も非常にシャープで、各種造形がハッキリとわかります。
少し見えにくいですが、2階の床に穴が空いているのがお分かりいただけるでしょうか。1階から階段を登り、2階にアクセスするまでの流れがそのままミニサイズに凝縮されています。
実車のボディはアルミの板を職人が加工し繋ぎ合わせたもの。パネルの接続部分が凸形状になっている当時特有の造形がしっかり再現されています。一つ一つの独立した窓には、角の丸い特徴的な形で縁取りを囲む立体造形があしらわれます。インテリアにびっしりと並んだ椅子もバスらしさを演出。2階席も余すことなく再現され、全ての窓から座席が覗く圧巻のディテールを楽しめます。
底面は「WELLY」のロゴと製品番号、中国製の表記が見られます。ネジの位置が中央ではないのは、左右非対称であった運転席のインテリアにネジ穴が接触しないようにするための工夫です。金属でできたボディの厚みも、下から見るとよくわかります。タイヤには溝のパターンが。
今回は、産業の変遷とともに姿を変えながら都市を動かし続けてきた、ロンドンバスのミニカーをご紹介しました。馬車の時代から始まった2階建て構造は常にロンドン市民とともにあり、歴史を映し出す鏡として姿を変えながら生き続けています。そんな特別な乗り物を、こうして手に取って楽しめるのは本当に素晴らしいことだと感じます。WELLYならではのボディ造形や別パーツ構成による質感も素敵な一台。棚や机にディスプレイするのもおすすめです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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