文/S.Hiramatsu
ピックアップチョイスとしてご紹介するのは、「2017年モデル アバルト 124 スパイダー 1.4」。名車124のDNAを引き継ぎながら、アバルトとマツダの協力により実現したオープンカーである。
今回紹介するモデルのルーツとなったのはフィアットの124というモデル。多くのボディタイプを持つ本モデルのオープンタイプとして、1966年のトリノショーでお披露目となった。繊細なメッシュグリルにつぶらなライト、メッキバンパーがかわいらしく、現代の目で見るとノスタルジーさえ覚える。幼い頃読んだ絵本に、こんな車が出てきたと、淡い記憶さえ蘇ってくるようだ。速さを突き詰めた高性能マシンというよりは、穏やかに過ごす日常にちょっと爽やかな風をプラスしてくれるような佇まいをしている。
そんな124に、アバルトによるチューニングが施された。「アバルト124 スパイダー ラリー」は1972年に登場し、ラリーカーとしてWRCで活躍するなど、この車を一気にレースコースの注目の的へ変貌させた。アバルトが手がけたモデルの中でも、とりわけ純粋にパフォーマンスを求めることのできる優れたレースカーであった。エンジンを車体中央寄りに搭載するフロントミッドシップの配置が取られ、理想的な重量配分を実現。ベースとなったフィアット124のコンパクトな車格と相まって、コーナーでも安定感のある走りが可能であった。さらに、左右のタイヤの固定軸を別々に動かせる、独立懸架サスペンションを採用。ラリーコースで待ち構える数々の段差でも、しっかりと路面を掴んで走り抜けられる、紛れもない競技車だ。
そんなアバルト124は、2016年から日本の工場で生産された。なぜならフィアット/アバルトで扱う「124」そのものがマツダ・ロードスターのプラットフォームをベースに生まれ変わったからである。なお、日本国内ではフィアット版は正規導入されず、「アバルト124 スパイダー」のみが販売された。
マツダ・ロードスターは今や貴重な国産オープンカーであり、扱いやすいサイズ感も魅力。この規格での選択肢が増えるというだけでも魅力的だったわけだが、124スパイダーはアバルトによって仕上げられた情熱的な仕様となっている。搭載されたのは1.4L直列4気筒ターボエンジン。それが生み出すのはトルクフルな押し出し感で突き動かされる、スパルタンなドライビングだ。そしてビルシュタイン製のサスペンションに施されたのは、いわばアバルト専用調律ともいうべきものだ。ターボエンジンとワイドタイヤの発生させる力をしっかりと受け止め、ロールをぐっと抑え込む。そんなスポーツ仕様ならではの味付けが、高速道路のレーンチェンジやコーナーを回り込む瞬間を、より高揚するものへと変えてくれる。
なお、アバルト124の源であったラリーのDNAは健在であり、2016年型モデルにも市販モデルとは別にラリー仕様も製造された。かつて活躍の血筋は確かに受け継がれ、現代のレースにおいても人々を熱くさせる存在だ。ロードスターをベースとしたオンロードの魅力とは違った一面であり、この小さなスポーツカーが網羅するフィールドの広さが改めて感じられるのではないか。
今回紹介するのは「124」復活の熱も冷めやらぬ2017年モデルのAT仕様である。
フロントの印象を決定づけるのは、グリルの形状やライトへ向かう奥行き、縦置きエンジンを示唆するボンネットの特徴的な造形。これらは70年代のモデルから受け継がれたものだ。
全長4,060mm×全幅1,740mm×全高1,240 mmのボディは、1.150kg(ATモデル)という軽量なものである。最高出力170 ps(125 kW)、最大トルクは250 Nm (25.5 kg・m)。
ロードスターはマツダデザインのデザイン哲学「魂動」が宿った、生命的、彫刻的な造形が魅力であった。最も古典的なカーデザインのテーマを最大限突き詰め成熟させたようなこの美しさは、既にスポーツカーのデザインとして完成されたようにも思える。それに対し、アバルト124は非常に現代的なワイド感あるスタンスを持ち、車を彫刻ではなく、どちらかといえば構造体として捉えているような印象を受ける。グリル内のハニカム状のパターンなどもそれを物語っているように感じられる。
ホイールベースはロードスターと同じく2,310mm。コンパクトだがメリハリのある造形で引き締まった印象に。面に奥行きを感じる深い造形というよりは、典型的なFRのプロポーションをすっきりとまとめたという印象のサイドビューだ。全体的に抑揚はやや控えめで、ノーズやトランクの先端はある程度の高さを保っている。リアフェンダーのラインはボディ面との境を描き出し、ここもかつてのモデルから受け継がれた特徴である。
全体的に横方向の広がりを感じることのできる、ワイドな後ろ姿。奥行きが深い立体が張りのある面質で形成されるボディからは、「かっちり」と固められた印象を受けた。やや無骨で無機質なリアビューに、下回りのブラックアウトされたマフラー周りがさらに構造的魅力を与えている。
Uの字の構造体による5つの立体が中心で留まっているような、がっちりとしたホイール。足回りにしっかりと重厚感を与えている。センターにはアバルトのエンブレムであるサソリのグラフィックが。親しみやすい小型車がレースコースでここぞというときにライバルを「刺す」姿はまさにサソリそのものなのだ。
スポークから覗くブレーキキャリパーは、ボディやエンブレムと同じく赤色で仕立てられ、コーディネートとして魅力的だ。なお、このキャリパーはブレンボ製で、フロントに装着される。走るだけでなく、止まることへのこだわりも、スポークの裏で確かに語られている。
インテリアは複雑な立体を持ちつつ、アナログ感の強い機械的な魅力がしっかりと感じられる。実はマツダ・ロードスターと共用のものが多く、室内の大きな印象はこれに準じている。コンパクトで乗りやすい、それでいて刺激的なスポーツ・フィーリングを楽しめる車両としては、非常に魅力的なもの。そこにアバルトならではのチューニングが加わり、唯一無二のコックピットを創り出す。
ステアリングにはアバルトのエンブレムが鎮座し、赤いマーキングがレーシーなプロダクト感を高める。メーターも赤色で一際目立ち、この車は回転数を見ながら走りを楽しむクルマだというメッセージを発しているかのようである。
シートはアバルト専用のスポーツタイプのもので、深く着座することができる。華美になりすぎず、シートも「道具」に徹しているような佇まい。座面、背面は古いモデルに多く見られたようなシンプルなデザインで、「124」の名が秘めた歴史を醸し出している。「ABARTH」の文字エンブレムもセンターに構え、正統派なシートのデザインを一層引き締める。
オープンカーの魅力は、なんといってもこの解放感!アバルトによってチューニングされたトルクフルな走りを、爽快感と共に楽しめる。リア駆動で背中から押されるような「力の出所」をしっかりと感じつつ、風を切りどんどん前に進みたくなるような爽快感がドライバーをどこまでも運んでいってしまう。そんな力強さと爽やかさを同時に味わえるドライビングこそ、このモデルの大きな魅力であろう。
1.4リッター直列4気筒マルチエアターボエンジンが縦置きで配置される。車体は広島で製造されたが、エンジンはイタリア製のターボエンジンを用いていた。
最大トルクは250 Nm (25.5 kg・m)であり、これはロードスターの約1.6倍に相当する。この力強いトルクをわずか2,500回転で発生させ、アバルトらしい刺激的な印象の乗り味を生み出す。
今回紹介した車両は、軽く乗りこなせるサイズ感にアバルトならではの刺激が詰まった、個性的な一台であった。ラリーの名車に敬意を表しつつ、全く新しいスポーツカーとしても純粋に楽しめる。そしてそのデザインと乗り味は、国内で手に入るスポーツカーの選択肢として非常に魅力的なものとなっている。
イタリアの風に吹かれながら、爽快かつ刺激的な走りを楽しむ。そんなスパイスの効いたオトナなドライブが、無理のない背伸びをさせてくれる。
この車両はフィアット/アバルト国立で取り扱っております。詳細はお気軽にお問い合わせください。








