1964年4月、ニューヨーク・ワールドフェアで発表されたフォード・マスタング。発売初日には2万2000台のオーダーを受注し、発売後1年11カ月でミリオンセラーを記録するという金字塔を打ち立てた。マスタングの生みの親であるリー・アイアコッカは「若者たちは所有することがファッショナブルで、走りの楽しいコンパクトな2ドアモデルを求めている」というマーケティング戦略に基づき開発に着手。フォード・ファルコンをベースに誕生したコンパクトなスポーティカーは「ポニーカー」の愛称で親しまれることとなった。
と、まずは自動車専門誌でもお馴染の誕生フレーズを並べてみたが、今回、試乗へと連れ出したのは2018年にマイナーチェンジが施された7世代目となる最新モデル。ラインナップに用意されるボディデザインはファーストバックとコンバーチブルの2種類となり、ここでフューチャーするのは前者のファーストバック。初代モデルのイメージを現代風にアレンジしたワイド&ローのボディスタイルはお世辞抜きにカッコイイ。美しい曲線を描くボンネットのプレスラインやボディサイドのキャラクターラインはシャープさが際立ち、抑揚の効いたシルエットは大人の遊び心を刺激する仕上がりだ。デザイン的には決して斬新でないものの、オールドスクールを巧みに取り入れた美しさは唯一無二の存在感を主張する。日本のみならず、世界的に「やりすぎ感」のあるボディデザインが主流になっている昨今、ミドルエイジにとってマスタングのスタイルは素直に受け入れることができるはずだ。
初代モデルのイメージを現代風にアレンジしている新型マスタングだが、その中身は最先端のテクノロジーがテンコ盛りだ。用意されるパワーユニットは5リッターのV型8気筒エンジンとEco Boostと呼ばれる過給機で武装した2.3Lの直列4気筒DOHCエンジンの2タイプ。最高出力はV8が420hp、Eco Boostが310hpを発揮し、トランスミッションには6MTと共に10ATが用意されパワートレーンと抜群の相性を見せる。また、足回りの進化は目覚ましく、フロントにマクファーションストラット、リヤにマルチリンクを採用するなど旧態依然としていたアメリカ車のイメージを一掃しているのも大きなセールスポイントだ。
初代モデルのイメージを現代風にアレンジしている新型マスタングだが、その中身は最先端のテクノロジーがテンコ盛りだ。用意されるパワーユニットは5リッターのV型8気筒エンジンとEco Boostと呼ばれる過給機で武装した2.3Lの直列4気筒DOHCエンジンの2タイプ。最高出力はV8が420hp、Eco Boostが310hpを発揮し、トランスミッションには6MTと共に10ATが用意されパワートレーンと抜群の相性を見せる。また、足回りの進化は目覚ましく、フロントにマクファーションストラット、リヤにマルチリンクを採用するなど旧態依然としていたアメリカ車のイメージを一掃しているのも大きなセールスポイントだ。
新型マスタングの魅力はインテリアに於いても同じことが言えるだろう。古き時代のアメ車独特の武骨なデザインは姿を消し、シンプルながらも美しい“世界標準”的なものへと変更されている。メーターには液晶ディスプレイを採用し、モード切り替えによって表示するデザインを変更することが可能だ。スノー&ウエットモードでは出力を制御するだけでなく、排気音を低く抑えることができるので夜間の住宅地や車庫入れ作業で真価を発揮してくれる。また、センターコンソールには大型の液晶ディスプレイを備え、Bluetoothとスマートフォンを同期させることで音楽や情報、カーナビゲーションを表示することができる。アメリカ車に多かった独特の1.5DINサイズでオーディオ環境に苦労していた時代は遠い昔の話である。
スタイルと性能を高次元で融合させた新型マスタング。その実力を堪能するため、まずはV8モデルのステアリングを握ってみたい。
今回、試乗へと連れ出したモデルは、フロアMTモード付きの10ATとマグネライドダンピングシステムを搭載した「GT PERFOMANCE PKG」と呼ばれる特別仕様。スターターボタンを押しエンジンに火を入れた瞬間、ボディを揺さぶるV8エンジンならではの躍動感と共に大迫力のエキゾーストノートが響き渡る。五感をビリビリと刺激するエクスタシーにアドレナリンが大放出される快感は、他のクルマでは味わえない醍醐味であり、新型マスタングの真骨頂だ。アクセルを踏み込むと図太いトルクによって気持ちの良い加速を見せつける。そのトルク感はアメリカンV8ならではものだが、エンジン自体のフィーリングにはフリクションの良さが際立っていた。滑らかとは行かないまでも、古き良き時代の味付けとは一線を画する精緻さを感じさせてくれる仕上がりである。
新型マスタングの素晴らしさはエンジンだけでなく、ステアリングの操作感と足回りの進化も大きく貢献している。加速に対してしっかりとしたステア感覚とマルチリンクを採用したリヤサスペンションの追従性が走りのステージを高めていることは間違いない。フロントブレーキはブレンボ製のキャリパーとローターが奢られ質の高い制動性を披露してくれた。アメリカンV8が「直線番長」というイメージはここにはない。市街地やワインディングでも楽しめるバランスの良さは、新時代のアメリカンスポーツとして世界中に存在するスポーツカーファンに迎えられることだろう。ただし、そこには大排気量モデルならではの税金や燃料代をネガティブに捉えない “心の広さ”と“懐の余裕”が必要になることは言うまでもない。
新型マスタングのトピックスはEco Boostと呼ばれるツインスクロールターボチャージャーで武装した2.3Lの直列4気筒DOHCの存在だ。往年のアメ車フリークからは異端児的な印象を持たれることも多いようだが、ダウンサイジングが求められる現代のパワーユニット事情を踏まえれば当然のユニットである。
ここで紹介する「2.3 Eco Boost Premium」は、心臓部にオールアルミ製の4気筒エンジンを搭載したモデル。過給機を付加したエンジンは310hpを発揮し、1740kgのボディをストレスなく加速させてくれる。その味わいはV8搭載モデルとは全く異なるもので、全てにおいて「軽さ」を感じさせるフィーリングが大きな特徴。エンジンを始動させてアクセルを煽ると2000rpm付近から「ヒュイン、ヒュイン」という過給音を響かせる。10ATとの組み合わせも抜群で、滑るように加速してくれるのが印象的だ。V8エンジンがトルクで走るタイプならこちらは回転で加速をする味付けとなり、日本製の高性能ターボエンジンと比肩する滑らかさはアメリカ車の概念を根底から覆す味付けといっても過言ではない。基本的なボディや足回りはV8モデルと共有するものの、全体的なイメージはライトな操作感となり、4気筒エンジンならではノーズの軽さが際立っていた。
エクステリアではV8ユニットを搭載したGTとの差は僅少だ。フロントグリルの網目とその両端を仕切るスリットの有無程度で、外観から両車の違いを見分けることは難しい。その意味はこの4気筒モデルが決して廉価版ではないというフォード社のメッセージでもあり、似て非なるキャラクターを持つ並列のモデルとして位置づけられている証でもある。マスタングの生みの親であるリー・アイアコッカが提唱した「走りの楽しいコンパクトな2ドアモデルを求めている」とコンセプトは、“新時代のポニーカー”としてEco Boostに継承されている。
完成度の高い新型フォード・マスタング。最終進化形のマッスルカーであるV8ユニットを与えられた「GT」と、新時代のポニーカーとして新たな扉を開けた「Eco Boost」を同一線上で比較するのはナンセンスである。似て非なる2台は対極に位置する存在であり、全く違うキャラクターとして対峙することが望ましい。
簡単に新型マスタングの解説をお届けしてきたが、読者諸兄から「フォードが日本から撤退しちゃったから新型マスタングは買えないし…」とお嘆きの声が聞こえてきそうだがご安心あれ。日本国内にはアメリカから直輸入されたモデルが数多く用意され、撮影車両をお借りしたBUBUでは3年間の保証に加えてアフターメンテナンスやユーザーへのケアも万全に整っている。
刺激的なスタイルと官能的なパワーユニットを高次元で融合した新型マスタング。さらには安心のサービスが整っていることを考えれば、後は自分の感性を刺激するモデルを選び、ギャロッピングホースとの蜜月を楽しむだけだ。
並木政孝 Masataka Namiki
1964年3月26日 東京都葛飾区出身
輸入車雑誌の編集長を経て、機械式腕時計、眼鏡、女性ブランド誌の編集長を歴任。2007年にフリーランスへと転身。板金塗装、カメラマンなど異色の職歴を持つカーフリーク。他にもバスフィッシング、ロードバイク、MTB、バイク、スキューバダイビング、カヌー、アウトドア、読書などを趣味に持つ。