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BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.32 「シボレー・カマロ & 樹崎 聖」

BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.32 「シボレー・カマロ & 樹崎 聖」

第32回目は漫画家の「樹崎 聖」さんにご登場いただきました。

文/プロスタッフ写真/内藤 敬仁

車も漫画も同じ。驚きから生まれるのが"感動"なわけです

はじめてそいつに出会った時はギョッとしました。
一目でアメ車と判ったけれど、見たことのない鎧を身につけた戦闘機のようなゴツさが目に刺さったんです。装甲が分厚そうに見えるのはウエストラインが高くてガラス面積が小さいから。センスのいい強面、強そうなスポーツカー!それがファーストインパクトでした。

申し遅れましたが私はたまに車漫画を描く漫画家ではありますが、現在は漫画技術を研究し教えるコトを主な生業としている者……なのですが、「売れる作品を描くに特に大事なことは何か?」なんて、究極の問いかけには「ギョッとさせること」だ。…と、教え子たちには自信満々に語って評判を得たりしているのです。

人は驚いたことにしか笑いませんし、驚いたことにしか泣きません。もちろん驚いたことにしか熱くなりませんし、感動しません。… 感動!つまり心を動かすのはギョッとした時なんです。

普段はNDロードスターで走り回っている私ですが、あの出会いの瞬間、ちょっと心が動いたのでした。そして運命というのは繋がってゆくもの…。試乗記を依頼され自分で選んだわけでもないのに用意されたのが、ギョッとしたあいつ!そう、シボレーカマロその人、いや車だったのです。

車両イメージシボレー カマロ | 驚きから生まれるのが"感動"なわけです

スポーツカーは嗜好品であり社会悪。それでいいじゃん!

速ギョッとさせられた秘密を探るべく、入念にデザインチェック。

これでも某芸大デザイン科卒だぜ!と、何の役にも立ったことのない学歴を呟きながら気がついたのはボンネット! ボンネットは低いほど正義というのがスポーツカー道というモノでしょうが! 風を斬り裂くくさび形だからこそ男の子のリビドーに来るもんでしょう!? トンガってナンボだよ!と、誰に対する怒りか判らぬ意外性に呆然とするも、こういうのがギョッとして感動に繋がる仕掛けなんだ…と思い直し、さらによく見る…大きく見渡す。

…確かにどっからどう見てもコイツは正義じゃない、僕らを悪から助けるヒーローなんかじゃなくて、こいつは悪の華だ! デザイン全体がそう言ってる! 邪魔者は踏み付けにして走るような傍若無人なカッコ良さだ。そうとも、スポーツカーなんてものはそもそもが社会悪なのだ!嗜好品なのだ!

なのにだ、正義ぶるのはむしろ恥ずかしいことじゃないか?スポーツカーがなければ生きていけないオレたちゃ所詮、社会不適合者、そしてスポーツカーは社会不適合車! お似合いなのさ! 普通じゃ飽きたらないから非日常へ誘うスポーツカーを買うのだ!

…そう思って見返すと、なんと清清しい開き直り! 肩をいからせ睨みつけてくるようなド迫力! NDロードスターだってボンネットは低いがつり目でグラマラスで悪そうなのは同じだもんね。いいんだよ、コレは褒めるべきなんだ! いや、冗談抜きで。

さらにチェックすると用意された新車の2019年モデルのカマロクーペLT RS は、フロントグリルあたりがもう一台用意された2016年型のV6クーペ2LTから刷新されておりハニカム構造っぽくなっているのがカッコいい!と、思った瞬間、今回の依頼者のTさんが、「旧型の方が昔からのアメ車って感じでよかったんでがねー」って、ええええーっ!?……アメ車へのこだわりのない私にはカッコ良く見えるんですけどね。

蜂が巣を作るのに使う六角形の組み合わせ、軽くて強度が強い合理的な構造……まあデザイン的理由だけでの変更ではありましょうが……。
私の中の男の子の部分がそんなギミックにノコギリクワガタを見つけた時のようなピュアなトキメキを与えてくれるのですよー。

スポーツカーに求めるのは楽しい非日常でしょ?

脱線しましたが、そんなワルカッコいい車の一部となるべくワクワクしながら乗り込みます。が、スポーツカーとは一体となるもの! 心配です。心配? そう、心配なのは高いウエストライン(ベルトライン)ボディで、背の低いモンゴロイドな私の視界が確保されないのではないかということ。社会不適合はいいけど私不適合となってはいないかということ。だがしかし、心配は杞憂でした。

座席はパワーシートのスイッチ一つでムニョムニョモリモリと高くなり、見事に誂えたかのようなベストポジションに! 素晴らしい! アングロサクソン男子によるアングロサクソン男子のための巨体専用車を作っていた時代はとっくに終わっていたようです。あやや、コンプレックス剥き出しですみませんっ。小柄な日本人でもジャストフィットでしたーっ! このいかついボデイを着るように乗車できますよ!

車に乗るのが乗用車、車と一体となるのが、うん、なんかモビルスーツっぽい。まだ観てないけど、バンブルビーって映画ではトランスフォームしちゃうって、そういうこと !?(※) 気分はロボットのコックピットだね! 座席と一緒に気分も上がるー! 結果、視界は良好! スポーツカーとしては寧ろ周りが見やすいくらい。

車両イメージ見事に誂えたかのようなベストポジションに! 素晴らしい! アングロサクソン男子によるアングロサクソン男子のための巨体専用車を作っていた時代はとっくに終わっていたようです

さらに後から聞いたのですが、エアコンの温度が吹き出し口を直接回せば変化し、運転席と助手席では違う温度になるんだとか…。不良少年かと思ったら、超優しくて親切で気難しいこともなくって…って、ツンデレかよ!

でもね、私の見たいところはそんなとこじゃないの!初めて買った車がAZ-1の新車だと言えば、車ファンにはみなまで語る必要はないであろう。走り! そう、意のままに走るかどうかが知りたいの! 欲しいのは楽しい非日常性! と、いうことで、試乗する時いつも思うこと…「怒られるまでに…制限かけられる前に…『無茶しないで下さいね』とか言われないうちにぶっ飛ばしちゃおう!」を実行!

おお、ぐぐっと来る! このズータイにしてはアクセルに俊敏に反応、そしてそのままいい感じに加速! 不快な部分はない。人間の車での最大の快楽は加速だ。でもそれはこの日本においては制限速度の問題でレスポンスにこそあるというのが私の持論。
…合格! この装甲車のようなボディが軽々動く。そして曲がる! 大きさはほとんど気にならない。うん、コレ普通に出来のいいスポーツカーだよ!

ところで、アメ車に期待しがちなドロドロいうエンジン音は写真だけ撮らせてもらったV8 6.2リットルのOHVユニットの大排気量車でなきゃ無理みたい(写真のV8はSSショックエディション)。でも維持費を考えると、夢そのものを買うのでなければ、LT RSかな。実際若い人に売れてるそう。もちろんドロドロ音にコダワリなければLT RSも熱くさせる排気音を奏でるよ!

さらに比較用に乗らせてもらった3.6リットルV6の2LTも同じようなものだったのだけど、若干レスポンスでは2リットル直4ターボのLT RSがよかったような。これはチョイ乗りだし2LTを試乗した時スポーツモードになってなかった可能性もあるんで、多分どっちも及第点! このカタチが好きなら選ぶ価値ある選択肢であると言っておこう!

ただし、内装はインパネが多少プラスチッキーだったり、後席は頭がつっかえそうだったり細かい部分では粗かったりもするんだけど、そんなもんが大事なら後生大事に日本車乗り続けてろ!って話ですよね。愛せる理由は長所より欠点ですしね。ダメな部分もなきゃ長く愛し合えないですよ! 乗る私たちはそんな完璧な人間なのかってこともありますよね。良いお付き合いにはバランスってもんもありますしね。通じ合える車に出会いたいもんですよね。

車両イメージこの装甲車のようなボディが軽々動く。そして曲がる! 大きさはほとんど気にならない。

外見は不良っぽいけど中身は真面目。そんな車です。

…ということで、結論…
中身は真面目で優しいんだけど不良っぽいカッコして肩で風切って歩くようなカッコ良さ!そんな車、カマロLT RS。

真面目な委員長はちょっと人が見てないと思ってついゴミをポイ捨てしたのを見られただけで毛虫のように女の子に嫌われますが、不良ぶった強面は、きまぐれで木から降りられなくなった子猫をそっと降ろしてやっただけで見ていた女の子の永遠のヒーローですよ。これも漫画教えるときのキャラが愛されるための演出術の基礎なんですけどね。あなたはどっちの人生選びます?

※ 調べてみたらマイケル・ベイ監督が好きだったからという理由みたいでした。ちぇっ。失礼しました。

車両イメージ

【プロフィール】

樹崎 聖 Takashi Kisaki

1965年2月1日 兵庫県西宮市出身

日本の漫画家。大阪芸術大学デザイン科卒業。漫画元気発動計画主宰。
1996年より『スーパージャンプ』で連載した『交通事故鑑定人 環倫一郎』が7年にわたるスマッシュヒット。この作品はハリウッドでのドラマシリーズ化の話もあったが、契約内容も全て合意されていたにも拘らず、土壇場で中止となった。また、2011年には実写3Dドラマ化された。

2009年、『東京デザイナー学院』での講師経験を活かし執筆された『10年メシが食える漫画入門 悪魔の脚本 魔法のデッサン』がクチコミから『amazon』『楽天』の新書部門で長期1位になるなどロングセラーとなり、その続編となる『10年大盛りメシが食える漫画家入門』も2011年にアース・スターエンターティメントから発行された。

活動家としての一面もあり、『東京都青少年健全育成条例問題』の反対運動にも参加。ホームページに発表された抗議文は、Twitterにより拡散されたことから共感を集め、なかのZERO大ホールでの最大集会では漫画家の本質、本性から創作の自由の必要性を壇上から訴えた。

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BUBU MITSUOKAがお届けするスペシャルコンテンツです。
自動車に限らず、幅広い分野からジャーナリストや著名人をお招きして自動車を中心に様々な角度から
切り込んでいただく連載企画です。

今後も多数展開いたしますので、お楽しみに!毎月配信。

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