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BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.43 「ダッジ チャレンジャーSRTヘルキャット × 渡辺敏文」

ダッジ・チャレンジャー SRTヘルキャット

BUBUがお届けする連載企画 “ナレッジ” | Showcase.43 「ダッジ チャレンジャーSRTヘルキャット × 渡辺敏文」

第43回目は3回目の登場となるモータージャーナリストの 「渡辺 敏文」さんにご登場いただきました。

文/プロスタッフ写真/内藤 敬仁

アメリカの映画やドラマでお馴染みの存在

日本においては、ダッジのブランドとしての知名度は決して高いものではない。正規輸入されていたのは00年代に入ってからのほんの数年、そして撤退からは10年の時が流れている。

でも、このクルマに何かしらの既視感を覚える人は、ダッジを知る人の数よりも多いのではないかと思う。バニシング・ポイントからファスト・アンド・フューリアス(邦題:ワイルド・スピード)まで、映画やドラマでの登場は枚挙にいとまがない。しかもそのあらかたが、不良の相棒的な位置づけでストーリーに華を添えてきた。

現行型ダッジ・チャレンジャーの登場は08年に遡る。ダイムラーとクライスラーの提携時代にメルセデスのアーキテクチャーを基に設計されたLXシャシーの系譜…ということで300Cやチャージャーと兄弟的な位置づけになるが、チャレンジャーはホイールベースの100mm短縮やサスコンポーネンツのアップデートを受けたLCシャシーが充てがわれ、より積極的に走りを追求したスポーツクーペとしての立ち位置を明確にした。

車両イメージこれぞアメリカ車!"ダッジ・チャレンジャー"

浮世離れしたスーパーカーレベルのパワー

チャレンジャーは当初3.5リッターのOHC・V6と、6.1リッターのOHV・V8ヘミのバリエーションを軸にグレードを構成していたが、エンジンの進化や強化に伴いグレードは多様化、現在はV8だけでも3種類のエンジンが用意されている。

中でも圧倒的最強グレードとなるのがSRTヘルキャットだ。6.2リッターのOHV・V8ヘミにスーパーチャージャーを組み合わせた、いかにもアメリカらしいスポーティネスを感じさせるユニットを搭載。今回の取材車である18年型の場合、その最高出力は707hp、最大トルクは881Nmを発する(19年型以降は717hp/892Nm)。

700hpオーバーを現在の市販車のスケールで測ってみれば、それは浮世離れしたスーパーカーが抱えるレベルのものだ。フェラーリF8トリブートやマクラーレン720Sの最高出力が720psといえば、その猛烈さが伝わるだろうか。もちろんヘルキャットは大きく重いが、それを補わんとトルク値はそれらより100Nm以上大きい。しかもヘルキャットをベースに更なるポテンシャルアップを果たしたレッドアイやスーパーストックといった派生モデルには800hp前後のパワーが与えられている。そんなパワーを普通に扱っているのはフェラーリくらいなもので、さすがにこの辺りになると市販車の常識では測れないところがある。

車両イメージ”ヘルキャット”は700hpオーバーを誇る浮世離れしたスーパーカーレベルのパワー

チャレンジャーがFRにこだわる理由

ヘルキャットのユニークなところは、この700超級のパワーをFRで御しようとしていることだ。欧州的な志向では、500psくらいから向こうはFRでは吸収できないということで、たとえばメルセデスのAMGやBMWのM系のモデルは軒並み四駆化が進んでいる。チャレンジャーもV6モデルには四駆が用意されているくらいで、技術的にそれは難しい話ではない。それでも敢えてFRにこだわる理由は、ドラッグレースなどを通じて培われたアメリカのクルマ好きの矜持と相通じるところなのかもしれない。そういえば前述のスーパーストックや初の800hpオーバーを果たしたデーモンなど、チャレンジャーの代々のトップグレードはドラッグマシンとの繋がりを感じさせるものが多い。

もちろん、そのパワーを公道で扱うには相応の思慮も求められるわけだ。そこでヘルキャットは700hpオーバーを扱うドライバーに2つの関門を設けている。1つは携えるキーフォブによるアウトプットの制限で、黒いフォブならパワーは500hpに抑えられ、赤いフォブなら707hpの取り扱いが許される仕組みだ。

赤い鍵を携えてエンジンを始動するも、パワーの開放にはもう1つの設定が必要となる。それはセンターディスプレイ上でドライブモードをスポーツもしくはトラックに変更すること。この2つの条件が揃って、ヘルキャットはフルパワーの状態となる。ドライバーに扱いの覚悟を促すという意味で、この念入りな段取りは必要なものだろう。

実用域では気難しさがなくて乗り心地も鷹揚

まずはクルマに慣れるべく、ドライブモードはデフォルトで走り始める。この状態では出力は500hpに制限されているが、それでも加速にヌルさを覚えることもない。アクセルを少し余計に踏み込んでみれば、前方との距離を一気に縮める速さにおおっと身構える。眼前のバルジの下に収まるスーパーチャージャーは加速の度に結構な作動音を響かせるが、他車ならば耳障りな不快音と扱われるそのミャーンという唸りも、車名がヘルキャットなだけになんだか憎めない。

前輪も後輪と同じ275幅のぶっといタイヤを履くだけに、操舵応答の高さは相当なものだろうと想像していたが、さにあらず。ヘルキャットの旋回所作は意外にも穏やかで、初期はじわっと動き始める。そこからステアリングを切り込んでいけばゲインはしっかり高まるものの、それでも今日びのスポーツモデルに比べるとその推移はちょっとマイルドだ。そのぶんライントレースに気難しさはなく、コーナーを曲がる際の舵角もピタッと一発で決まる。

端々で感心させられるのはの鷹揚な乗り心地や高いスタビリティ、曲がる際の挙動の優しさやねっとりとした前輪の接地感で、そこにはシャシーのベースとなった、ちょっと旧いメルセデスならではのキャラクターが活きているという印象だ。

車両イメージ感心させられる鷹揚な乗り心地や高いスタビリティ

いにしえのマッスルカーを確信犯的に再現したモデル

クルマの動きに慣れたところで、いよいよドライブモードをスポーツに設定。707hpの開放とともに、操舵力や可変ダンパーレート、変速マネジメントやESPの介入度などがスポーティなキャラクターにセットされる。

周囲の状況を見計らいながらアクセルを踏み込むと、ヘルキャットの獰猛な本領がいきなり垣間見えた。ゼロ発進ではなく走行中なのにも関わらず後輪はたやすくグリップを失って悲鳴をあげ、それでもトラクションコントロールが必死にホイールスピンをなだめつつ車体を前へと進めようとする様子が、わななくような挙動からも感じ取れる。高速巡航からの追い越しでさえ全開をくれれば、後輪がぐにゅっとたわみながら、身悶えるように前へと進む様子が乗り手にもありありと伝わってくる。

速いか遅いかといえばとんでもなく速い。グリップが戻った時の速さの質は大排気量という物量でぶっ放す、腹に押し込んでくるような分厚さがある。一方で、思慮なく扱えば持てる馬鹿力は発散しまくるわけで、これは決して効率的な話ではない。単純な速さを事務的に競うなら他に採るべき策はいくらでもある。でも、有り余るパワーを手なづけ時にはねじ伏せるような、そういうじゃじゃ馬慣らしを操る歓びとして接したいというクルマ好きの男子が少なからずいることもよくわかる。

ヘルキャットはマッスルカーといういにしえのカルチャーを現代に蘇らせながら、そういう愉しみを確信犯で提供しているクルマだ。アメリカでなければ成立しない商品企画でもある。そんなロコな世界観を登録や維持の心配もなく、安心して日本でも味わえるというのはクルマ好きとして幸せなことだと思う。

車両イメージヘルキャットはマッスルカーといういにしえのカルチャーを現代に蘇らせながら、そういう愉しみを確信犯で提供しているクルマだ。

【プロフィール】

渡辺敏史(ワタナベ トシフミ)/ 自動車ライター

1967年生まれ。企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)にて二・四輪誌編集に携わった後、フリーの自動車ライターに。
現在は専門誌及びウェブサイト、一般誌等に自動車の記事を寄稿している。
近著に、05年~13年まで週刊文春にて連載した内容をまとめた「カーなべ」(上下巻)がある。

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BUBU MITSUOKAがお届けするスペシャルコンテンツです。
自動車に限らず、幅広い分野からジャーナリストや著名人をお招きして自動車を中心に様々な角度から
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今後も多数展開いたしますので、お楽しみに!毎月配信。

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