
まるでレーシングマシンのホワイトボディ的なオーラ
高年式モデルは各部の操作性までフィールが向上している
文/石山 英次写真/古閑 章郎
アメリカのクルマはパワーがあるが重たく鈍い。だが、トルクがあるから直線は快適で走らせても楽。でも、曲がりくねった道ではロールが大きくフラフラするからちょっと怖い。ブレーキも甘いので気をつけなければならない。くわえてガソリンは食うし、排気量があるから税金高いし・・・・。
ひと昔前のアメ車のイメージと言ったらこんなものだった。
だが、2010年以降のアメ車はそういったネガを少しずつ改良し、我々の意識を変えていった。
まず変わったのが、車体の剛性。そして足回り。もともとエンジンパワーに関していえばそれなりに定評があったわけだから、それを支えるボディや足をしっかりさせればそれなりに良くなるはず、と。
そしてブレーキにも手を加え、「走る、曲がる、止まる」が見違えるようになった。そんな時代の象徴がカマロでありコルベットである。
2010年以降のアメ車の走りの感覚が飛躍的に良くなったのは、間違いなくこの2台のGM車のおかげであり、彼らがニュルと呼ばれる難攻不落なサーキットを実験的に攻め、走りを完成させたからに他ならない。そしてその結晶がカマロ ZL1でありコルベット Z06であった。
そんなカマロの進化にライバルたるマスタングが黙っているはずはなかった。まずは2010年代前半にはシェルビー GT500を進化させ、そして2014年にはマックスパワーを662hpにまで引き上げる。
だが一方でカマロは2015年に、それまでのハイパワー競争から一転してZ28を発表する。このZ28とは、車体を軽量化しV8エンジンを磨き上げ、しかもNAエンジン。くわえて6速MTのみ、という、それまでのアメ車の方向性とは異なるレーシーな車両を追加。
このZ28に使用されたエンジンは、当時のコルベット Z06に使用されていた7リッターV8エンジンであり、一気にマスタングを突き放したのである。
そんな状況下で誕生した「打倒Z28を掲げたマシン」がシェルビー GT350である。
デビューは2016年。この当時、というか今思えばフォードに力(資金力)があった最後の時代だったと思うし、だからこそのシェルビー GT350の登場ということだったのだろう=作り込みが半端ではなかったのだ。
ボディはその当時のマスタングを使用するものの、軽量化とフロント部分の剛性アップのためにカーボンコンポジット素材を使用。搭載エンジンは5リッターV8NAエンジンであるが、クランクシャフトを変える等してレブリミット8,250rpmまで回るV8エンジンを製作。エンジン&ギア熱対策も十分に施し、そして足回りとブレーキを改良、当然ギアは6速MTのみで、主戦場はサーキットである。
ちなみに2トンを超えるアメ車が多い中で、シェルビーGT350の車両重量は1,00キロ台前半。この部分だけでもその「差」が明確である。
アメリカメディアでは当然カマロ Z28との比較がなされ、どのメディアにおいてもGT350の優位性が語られていたのはご承知の通り。
だからこのマシンを日本で乗ると一昔前のアメ車とは比較にならない走りが体感できる。プラスして高回転域まで回るV8NAエンジンの息吹が感動的で、悦に浸れるほど心地いい。
ベースはマスタングであるが、このクルマに関してのみは「マスタングであるがマスタングにあらず」といった感じで、全く異なるレーシーなマシンに乗っているような感じであるし、サイズで言うところのミドル級的存在だから、日本車でいうマツダ ロードスターやGR86といった小型スポーツカーとは一線を画し、比較的大きな車体が機敏に走る、世界的にも稀なスポーティーカーとも言えるのである。
ちなみに、こうしたイケイケマシンであるがゆえに製作には非常に手間がかかり、2016年からたった4年間のみの2020年に生産終了。ファンの間では今や伝説の1台と化している。
今回の個体は2019年型。8,000キロ走行。年式が2019年というのは筆者が取材をしていて初めての高年式であり、BCD自体も過去これまでに4台ほどしか扱ったことがないという。
GT350は、2016年のデビュー以降、毎年のように小幅な変更を繰り返しており、2019年においてはまずダンパーの制御が変更され、外見上ではリアウイングの形状が変わり、ホイールのデザインが変更されている。また装備されるレカロシートのコンビカラーの色合いが変わる等、小幅であるがなかなかの変化が見て取れる。
プラスして2019年という高年式であること、さらに走行が1万キロにも満たない8,000キロという個体だけあって、状態はかなりいい。
シェルビーといえば「レーシングストライプ」というのが定説だが、今回の個体はオックスフォードホワイト一色のストライプレスの個体だけに珍しい。一瞬2015年から2017年のマスタングにも見えなくはないから、「羊の皮を被った狼」的存在が気取れるのも面白い。
というか、じっくり見るとレーシングマシンのホワイトボディ的なオーラを感じさせるからこれはこれでシンプルだがめちゃカッコイイ。
さてそんなシェルビー GT350の販売価格は1,158.0万円。別途整備費用が加算されて1,242万9,670円(一般的なオプション内容含む)。そんな購入シミュレーションはざっくり以下の通り。
・頭金:500万円 ・ローン元金:742万9,670円 ・支払回数:120回 ・金利:2.9% ・ボーナス月加算額:なし ・月々支払額:7万1,300円(初回のみ8万3,195円)
クルマに月々7万1,300円と考えれば高いのかもしれない。だがこの先決して手に入らない「最高峰のマシンに7万1,300円」と考えるなら「意外と安い」という見方も成り立つかもしれない。
ちなみにBCDには50プランが存在するから購入時にプランを利用すれば、3年後、車体販売価格1,158.0万円の半額579万円」の下取り価格が保証されている。
要するに毎月の支払いを3年間行っていれば、3年後に売却して残債を清算しても「足」が出ることはないのである。
とはいえ上記は筆者が計算した「ちょっと特殊な買い方」であることは間違いない。ゆえに決して万人に勧めたい話ではない。だがもしも「その気」になった場合には、決して夢物語で終わる話でもないことだけはおわかりいただけたかと思う。
さて、このマシンのデビュー以降、フォードは片っ端からラインナップにリニューアルをかけ、売れない車両は廃止し、そしてEVへと舵を切った。
だから今後シェルビー GT350のような超気合の入ったマシンが誕生することは決してないだろうし、この先登場するであろうマスタングのフルモデルチェンジ版においても、それなりの良質車であることは間違いないものの、ここまで徹底してこだわって作られたマシンの登場はないだろうと言えるのである。
パッと見普通のマスタングにも見えなくはないが、凝視すると只者ではないオーラを発していることがわかる。
まるでレーシングカーのホワイトボディのような白黒のコンビネーション。シンプルではあるが、派手さを好まない方には逆にいいのではないか。
搭載されるエンジンは、5.2リッターV8NAで526hp、最大トルク429lb-ftを発生させる。レブリミットが8250rpmと高回転型パワーユニットである。
フロント部分にはカーボンコンポジット素材を使いエンジンルームは太いタワーバーでガッチリ固められている。
野蛮なV8というよりはスーパーカーに匹敵する刺激的なフィールを発するから、それだけでも贅沢極まりない。
ストライプレスではあるが、各部にエアロが装着され、それが迫力となっている。
ホワイトボディに各部のブラックパーツが効いている。
フロント295/35ZR19、リア305/35ZR19のタイヤに超軽量ホイールが組み合わされている。
2019年からリアウイングはPEDESTALリアスポイラーに変更されている。これがまた似合っている。
レーシングマシン的なシンプルかつレーシーな雰囲気を発するインテリア。
赤いシフトノブは社外品だが、フィールは最高に良い。
年式を追うごとにフィールが良くなるクラッチ。2019年型では若干フィールが重くなり、各部の操作性とのマッチングが良くなった。以前はクラッチのみ軽すぎるように感じていたが解消されている。
このマシンにはアナログメーターが良く似合う。
高回転型エンジンだけに油温&油圧の管理には注意したい。
2019年型ではレカロシートのカラー配分が変わる等している。ホールド性は最高レベルだけに最高峰マシンに良く似合う。