文/S.Hiramatsu
ピックアップチョイスとして紹介するのは、「1997年モデル メルセデス・ベンツ GクラスG320 ロング 4WD」。今や旧車の領域に片足を突っ込み、ネオクラシックと称される平成初期の車両の中でも、とりわけ特徴的なスタイルを持つ。かつて軍用車としての側面もあった車体はそのスタイリングを大きく崩さず、徹底的に無骨な本格オフローダーの姿を提示し続ける。そんな車両の2代目に当たる本モデルが宿すのは昔ながらのボディ形状と、わずかに角を取ったような処理などの絶妙なディテール。そこにはゆっくりと進んだ時代を感じられ、ネオクラシックモデルの魅力を堪能できる。
1969年、ドイツのダイムラー・ベンツとオーストリアのシュタイア・ダイムラー・プフがクロスカントリー車の共同開発を協議していた。ここで目指されていたのは極めて高い悪路走破性を持ちながらも、オンロードでの優れた操縦性も兼ね備えるという万能な車。1972年に先述の2社はこのモデルの開発に合意し、1974年には既に走行可能なプロトタイプでテストがされていたという。そのターゲットユーザーは「商用・公的機関・個人ユーザー」という超幅広いものである。個人ユーザーを一括りにしてしまっただけでなく、商用や政治的側面へのアプローチから、この車が網羅する領域の広さが垣間見える。同時期にはイラン軍が軍事車両を求めているなど、「軍事・国際警備需要」は大きな商機として存在していたという。このような背景によって進んだ開発は、まさに「究極の実用オフローダー」を現実にしようとしていた。
この使い手を選ばない最強の実用車は1979年に「W460」の型式番号を持ち、「Geländewagen」(ゲレンデヴァーゲン)という車名で販売された。ドイツ語で「全地形車両」を意味し、日本でも広く知られたGクラス全般の愛称である「ゲレンデ」はこれが由来である。
実際に世に出ると、軍事需要へ即座に応える車両となった。同年、北大西洋条約機構「NATO」軍の車両として制式採用され、欧州各国の軍や警察に導入されることになる。
ただし軍事用としてのみ作られたわけではなく、常に市販モデルとしてラインナップされ続けた。軍事用としてのニーズに耐える確かな走破性を持ちながらも、その使い勝手の良さと操作性は既に乗用車を選ぶ人々の中にも魅力的な選択肢として存在感を放ち始める。この「万能だけれど唯一無二」な魅力はまさに「デザインは機能に従う」ことを最も端的に体現した工業製品のあり方そのものである。
今回紹介する2代目は1989年に誕生。「Gクラス」という名前を初めて冠したモデルであり、より民間仕様としての乗用車的要素が強まった。インテリアの居住性や素材の高級感が高まり、日常的な快適性にも焦点が当てられている。2代目のモデルは2018年まで続き、マイナーチェンジを繰り返しながら時代に合わせたアップデートを続けた。
ここで取り上げるのは1997年のモデル。ネオクラシックなスタイルの魅力が、現代にはないクルマらしさを無骨な質感と共に放つ。全長4,490mm×全幅1,800mm×1,970mmのボディは、頑丈な鉄板を組み合わせたような極めて道具的な出立ちで、内なる冒険心を掻き立ててくれる。
大迫力のフェイスが圧倒的な威厳を見せる。カクカクとしたボディに、上からドンと被さった厚みある別体のボンネット。フェンダー上に設けられた視認性抜群のウインカーも、Gクラスの魅力的な個性の一つ。車体の端を示し、運転の際に車幅感覚を掴むのにも役立つ。
分厚い鉄板を組み合わせたようないかにも頑丈そうなボディ。金属プレス加工のガチャン、ガチャンという音が今にも聞こえてきそうである。このビューから見ると、タイヤが4つ足で踏ん張っている屈強なイメージがダイレクトに伝わってくる。カラーはメタリックでありつつ、どこか軍用色の要素を感じる青緑だ。
王道プロポーションが極めて直線的に描き出されるサイドビュー。サイドモールとドアハンドルが一連に並ぶなど、徹底的にシンプルな構成が貫かれている。その迫力は、実車のサイズ故に醸し出されるもので、一つ一つのディテールに宿るしっかりとした奥行きを伴う立体感あってこそである。フロントオーバーハングは極めて短く、アプローチアングル(フロントタイヤの接地部とバンパー下端を結ぶ角度)は約30°となっている。
SUVならではのスペアタイヤカバーはファッション的要素でもあり、各々が自分色でアレンジできるポイントだ。この個体では初期型「W460」に付けられた「Geländewagen」(ゲレンデヴァーゲン)の名と共に大きなスリーポインテッド・スターが。リアハッチは車体の左右端まで延びるのではなく、ボディをくり抜いたような開口部としての存在感。相対的にリアにおけるボディ面が柱のように太い印象となり、車体の剛性感が見た目にも現れる。タイヤ後方のマットガードが一層オフローダーとしての存在感を高める。
肉厚な印象のスポークホイール。角に大きめのアール(丸み)を持たせることで、シンプルな形状の中にもハリ感が。中心部はパリッとした面に統合されたエンブレムとボルトが主役だ。
ヘッドライトに装着されたガードはオフローダーの定番パーツ。格子から覗く眼球は一層迫力を増す。
もう一つ、注目いただきたいのは車体のカドの面質。カクカクした印象のGクラスだが、近くで見ると意外と丸みを帯びている。これこそがボディに重厚感を与える要因の一つである。例えば厚紙で折り紙ができないように、分厚い板は薄いものより曲げに強く、強い力をかけてもピンとした直角は出にくい。それゆえ、僅かに丸みのある角は「曲げにくいものを曲げて作った」背景を示唆することにつながる。このように丸角は柔らかな印象を与えるだけでなく、時に素材そのものの剛性感や厚さを印象付ける重要な要素となる。さらに一見平坦な面に僅かなハリがあることも、ボディをより密度高く見せる。
インテリアはガラスエリアも広く、走行に適した見切りの良さも魅力の一つ。広さを感じられる室内に、艶ありウッドパネルの高級感が映える。物理スイッチの存在もネオクラシックモデルの魅力の一つ。
ステアリングはウッド調でインパネとの統一感がありつつ、常に手を置くような部分は樹脂製。光沢部が指紋だらけにならないのがうれしい。メーターは洗練されつつオードソックスな印象の読みやすいレターで、機能美を感じられるポイントだ。
各種スイッチやダイヤルは各種の機能を端的に表した工業製品然とした佇まいで揃う。樹脂パーツとウッドパネルのチリは綿密に揃えられる。
この車を本格オフローダーたらしめる重要な「デファレンシャル・ロック」を、中央の縦3連のスイッチで操作できる。
通常、カーブの際には外側のタイヤの方がより多く回転するのが自然だ。しかし舗装されていない道では、回転数の差が路面に適さないことがあり、タイヤの空転が発生してしまう。そこで活躍するのが「デファレンシャル・ロック」である。
「ロック」という言葉が使われるが、タイヤが回らなくなるという意味ではなく、2つ以上のタイヤ間の回転数差を許容する「デファレンシャル」の働きを止めるという意味での「ロック」である。したがって、これを適応させたタイヤ同士は悪路でも一定の回転数で回り続けることができ、嵌ってしまったぬかるみ等から脱出しやすくなる。もっとも、通常の道路ではまず使わない機能であるが、荒地をものともせず走り抜けたい生粋のアウトドア派に是非届けたい本格マシンの証である。
シフトレバー周辺もウッドパネルが使われ、統一感ある仕上がり。余談だが、非常に手の届きやすいこの位置にあるのが電気を取るためのソケットではなく、シガーライターであるところに時代を感じる(筆者は喫煙者ではないが)。トランスミッションはフロア4AT。
天井にはサンルーフを搭載し、見上げれば開放感とともに空の美しい眺めを眺められる。穏やかに流れる雲や、星の瞬く夜空。ゆったりとした時間の流れを予感させる。
トランク室内は余計な凹凸がなく、荷室としての機能性に全振りしたという印象。まるで一つの大きな部屋のように四角く、室内高約1,100mmと比較的高いことから、車中泊にもぴったりだ。横開き式のドアも、どこか秘密基地のようなワクワク感を備えている。
搭載されているのは3.2リッター直列6気筒DOHCエンジン。最高出力210ps(154kW)、最大トルク: 31.0kg・m(304N・m)を発生させる。高い信頼性を誇るメルセデス製自然吸気エンジンは、ターボ搭載モデルのような急激なトルクの変化がなく、古き良きメルセデス特有の滑らかで重厚感あるフィーリングを見せる。日常域や高速巡行をゆったりと流すのにも最適で、クラシカルな落ち着いた乗り味を味わえる。
今回紹介したモデルは、ネオクラシック×オフローダーという人気のスタイルで、当時の風を存分に味わいながらゆったりとした時間を過ごしたくなる車両。広い室内やスペアタイヤカバーなど、自分好みにカスタムできる余地もたくさんあり、理想のライフスタイルが次々と思い浮かんでくるような最高のツールボックスだ。「全地形車両」(ゲレンデ)の名の通り、どこへ行って、何をしていても、その選択をあなただけの正解に変えてくれる。
この車両は、BUBU MITSUOKA 柏ショールームにて取り扱っております。詳細はお気軽にお問い合わせください。








中央で縦に並ぶスイッチは、タイヤの回転差をなくす「デファレンシャル・ロック」機構。センター → リア → フロントの順(スイッチ左の青いバー本数の少ない順)で操作する。


