アメリカ車

Knowledge ! キャデラックCT6

BUBU MITSUOKAがお届けする 連載企画 "ナレッジ" | Showcase.5 ~堀江史朗

キャデラックCT6

フルサイズのキャデラックなのに意外なほど走りも良い

第五回目は モータージャーナリスト「堀江史朗」さんにご登場いただきました。
2017年1月17日 モータージャーナリスト / 堀江史朗内藤敬仁 構成 / プロスタッフ

僕に強烈なイメージを残した初体験のキャデラック

 僕が免許を取って「初めて乗った車」はキャデラックだった。
「初めて買った車」ではない。試験場で免許を受け取り家に戻ると、たまたまフリートウッドが置いてあったので、それを引っ張り出して乗り回したという意味だ。

 


 日本車とは異なる、極端にゆったりとした印象の大きなセダン。くるみボタンで飾られたベルベットのシートと、クロームが上手にあしらわれたインテリアは、昔風に言えば正に「富の象徴」のようであった。何とも言えないあのときのイメージが強烈だったせいか、今までに何台かのキャデラックを乗り継いできている。

 


 トランクをスパッと切り落としたクラシックスタイルが特徴的な2代目セビル。今でもカッコいいと思える90年代後半のエルドラード・ツーリングクーペ。馬鹿デカい飛行船のようなブロアム。また、最近まで8ℓビッグブロックV8エンジンを載せた1965年式クーペデビルも所有していた。

 


 実際には僕のキャデラックオーナー歴はこの前時代のフルサイズ世代で終わっている。もちろん仕事柄、新しいキャデラックはすべて乗ってきたが、古き良きアメリカンラグジュアリーを堪能してきたことは、僕にとって決して悪い経験ではないと思っている。

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ダウンサイジングの失敗と成功を経て今がある

 さて、時が過ぎ、単純なFF化や可変気筒化など何度かのダウンサイジングのトライ&エラーを経て、今のキャデラックのクールなラインナップが完成した。さすがにもうキャデラックという車名で「デカいアメ車」を想起する人は少なくなっただろうが、一方で欧州車のようにすっきりとしたデザインを思い浮かべる人も多くはないだろう。

 


 2ℓターボチャージャー搭載で衝撃を与えたATSや、ニュルブルクリンクでの最速記録を持っていたCTS-Vといった高性能マシンは、まだ日本において「キャデラック」という響きとはマッチしていない。もっと言えば、キャデラックのオールドファンからすれば、この欧州車に迎合したような変化は受け入れ難いと言えるかもしれない。

 


 一体キャデラックは何を目指しているのだろう?
それを探るべく、あらためてキャデラックシリーズのフラッグシップとなるCT6に試乗してみることにした。

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キャデラックが大きく舵を切ったのは初代CTSから

 しばらくの間、選択肢にアメリカ車を入れてこなかった人からすれば、今のキャデラックは「これが本当にキャデラック?」と疑いたくなるほどの変化である。だがこの変貌は決して最近になってのことではない。

 


 キャデラックがその設計思想において大きく舵を切ったのは2002年に発表したCTSからである。シグマ・アーキテクチャと呼ばれるFRシャシーベースの採用で、従来の伝統的なアメリカンスタイルの車作りときっぱりと決別し、欧州車と真っ向から勝負するという正攻法を選んだのだ。

 


 当初はその方向性にも躊躇いが見られたが、2008年の2代目CTSや2012年のATSのデビューにより、「走りのキャデラック」といったブランディングを確固たるものにした。事実、アメリカ国内ではジャーマンスリーからの奪還にもかなり成功していて、オーナーの平均年齢も若返ってきている。

 


 そして2015年4月、NYモーターショーでデビューしたCT6は、ある意味ブランドのシンボル的な存在として期待されてたモデルであり、日本でも2016年にデビューを果たしている。

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サイズ的にゆとりがあるからデザインも伸びやか

 CT6は、まず「見てくれ」のデザインにまとまりがある。全長5.2m近い大きな躯体だが、低く構えたフロントフェンダーのおかげで威圧的には感じられない。サイズ的にゆとりがあるのでウェッジバランスがキツ過ぎないのも魅力的。つまりプロポーションとしては明らかにATSやCTSより伸びやかであり優れている。リアからのフォルムも派手さはないがシンプルで優雅である。

 


 約3.1mもの長いホイールがもたらす抜群の室内スペースは、他のプレミアムサルーンでも滅多に見られないほど余裕がある。アメリカ車だからと言って今さらベンチシート&コラムシフトを欲しがるひとはいないだろうが、凝ったシフトノブやフラットなインパネなど、随所にアメリカ車らしいデザインを残している点はユニーク。

 


 すっきりとしたインテリアは適度に囲まれ感を保っていて安心できるし、そのクオリティは車格に相応しくよりラグジュアリーな仕立てになっている。乗っているときの落ち着き感もなかなかであり、各種装備の有難味をより強く感じることができる。

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これこそが本当の『フル装備』だ

 かつて「フル装備」とはアメリカの高級車のイメージから生まれた言葉だが、このCT6では数々の快適装備がどれも標準で装着されている。近頃の欧州プレミアムサルーンはオプション装備がやたらと多く、それらを積み上げていくと総支払い額がとんでもないことになりがちだが、CT6ではその心配は無用である。

 


 百聞は一見に如かず。以下URLを見てほしい。これだけの項目すべてに「標準装備」という文字が並ぶと、さすがにうれしくなってくる。


http://www.cadillacjapan.com/ct6/standard-options.html

 

例を挙げてみよう。
フロントシートは、最適なポジションを設定できる20ウェイの電動調整機能付き。リアシートにはパワーリクライニングを装備。全席に備わるマッサージ機能は5種類のプログラムから選択が可能。また日本仕様はフルラップレザーインテリアの“プラチナム”という豪華な仕様となる。クッションが硬すぎないところも、どこかキャデラックらしさを主張していてグッド。

 


 後席エンターテインメントシステムも標準。前席のシートバックにそれぞれ立派な10インチディスプレイが設置されていて高級感丸出し。純正オーディオはBOSEの最新システム“Panaray”をチョイス。またBOSEのノイズキャンセリング機能が、走行時の静粛性に大きく貢献しているのも間違いない。さらにヘッドクリアランスを十分に確保したサンシェード付きの電動スライディングルーフも標準装備で便利である。

 


 先進技術も「何でも来い」だ。
前進と後退時それぞれを対象にしたエマージェンシー対応のブレーキシステム。レーンキープアシストやサラウンドビジョン、ナイトビジョンやアダプティブクルーズコントロールなど、有ってうれしい安全補助システムはすべて装備されている。
その他、スマホのワイヤレスチャージング機能やアップルカープレイまで、今なら普通に必要なデバイスのサポートも、きちんと備わっているのだ。

 

フルサイズのキャデラックなのに意外なほど走りも良い

 

 日本仕様のCT6に搭載されるエンジンは3.6ℓのV型6気筒エンジン。残念ながらV8エンジンは用意されていない。最高出力は250kW(340PS)、最大トルクは386N・m(39.4kg・m)というスペックだが、通常の走行ならばまったく不満はない。

 


 組み合わされるトラスミッションはパドルシフト付きの8段オートマチック。ボディは60%にアルミを用いているらしく、車重は1920kgと比較的軽め。正確に計測はしていないが、NAなので燃費もこのクラスとしては悪くはないと思う。

 


 アクティブ・リアステアと呼ばれる後輪操舵機構を装備しており、大柄なボディながらその走りは軽快だ。マグネティックライドコントロールというサスペンションの減衰力調整システムも効いているのか、ワインディングで飛ばしても適度に楽しく、「おっとっと!」とは、なかなかならない。20インチという大経タイヤとの相乗で高速道では快適さが保たれている。しかもAWD(4輪駆動)仕様なのでオールラウンドに安心できるという優れもの。とにかく、足腰の強さは見事というほかはない。

 


 「V8でなければキャデラックにあらず」という御仁にとって、CT6はまず選択外になるかもしれないが、それも今や昔の話である。本国には3ℓツインターボ404馬力が用意されており、まぁそっちのほうほうが今っぽくて良かったかもしれないと思いつつ、逆にNAでこれだけのパフォーマンスを発揮している点も評価すべきところだ。

 


 昔のキャデラックにあった、ふんわりとした魔法の絨毯のような乗り心地をCT6に期待するのは酷であるが、ちゃんと「走って曲がって止まれる」サルーンとして生まれ変わったことは歓迎するべき進化だろう。

 


 実は、セルフスターターモーターを世界で初めて実用化したのもキャデラック。必要な技術や装備を出し惜しみしないポリシーも伝統のブランドらしく美しい。このCT6のデザインやと装備はキャデラックの考える標準基準なのだろう。

 


 最早キャデラックが目指しているのはアメリカンローカルな高級車ではなく、デファクトスタンダードとしてのプレミアムカー。世界で受け入れられる開発ポリシーが随所に見られる。

 

CT6で不満な点は?

 

 気になるのはいくつかのフィニッシュの甘さだ。約1000万円もする車なので、オーナーに提供する満足度こそが大切である。


 例えばインフォテイメントシステムのインターフェイスのイマイチさ。使い勝手の悪さやレスポンススピードの遅さはもっと研究してほしいところ。内外装の仕上げについても、あと一歩の細やかさが欲しい。便利なサンルーフだがサンシェードのたるみなどには工夫が必要だし、例えばボンネットを開けたときのデザイン的な演出にしたって、もっとやりようがある。


 細かいところだが、世界標準のプレミアカーとしては、更なる改善を期待したいところだ。

 

「キャデラックに乗っています」と応える面白さ

 

 ところでキャデラックという車名の由来はご存知だろうか。
ロールスロイスやベントレーが創業者や開発者の人名から生まれたように、キャデラックも人の名前にちなんでいる。

 


アントワーヌ・ロメ・ドゥ・ラ・モト・スィゥール・ドゥ・カディヤック

Antoine Laumet de La Mothe, sieur de Cadillac 】。彼は1958年生まれのフランス貴族。冒険家探検家として知られ、アメリカの自動車生産の中心的な都市となるデトロイトを開拓した人物として有名。その高貴な名前を譲り受けているだけに、キャデラックとはアメリカ自動車全体のシンボルのようなネーミングと言える。

 


 日本におけるキャデラックの課題は、優れたパフォーマンスと、それに追い付いていない古いイメージとのギャップである。プレミアマーケットでキャデラックのシェアが低いのはそのせいだ。逆転の発想としては、今キャデラックに乗れば衆目を集めることは間違いないというメリットもある。

 


 「車は何を?」と聞かれて、「キャデラックに乗っています」と答えるのは、「右ハンドルのメルセデスです」なんて答えるよりもかなりカッコいいのではないだろうか?

 

 

【プロフィール】

堀江 史朗(ホリエ シロウ) / モータージャーナリスト

 

カーセンサー、カーセンサー EDGEの編集長を勤め、現在はCCCカーライフラボ 代表を務める傍ら、OCTANE編集長など自動車業界にて幅広く活躍されています。

 

FACEBOOKページ

https://www.facebook.com/okholly

Knowledge! ナレッジ!

 

 

BUBU MITSUOKAがお届けするスペシャルコンテンツです。

 

自動車に限らず、幅広い分野からジャーナリストや著名人をお招きして自動車を中心に様々な角度から切り込んでいただく連載企画です。今後も多数展開いたしますので、お楽しみに! 毎月15日配信

 

取材店舗

キャデラック葛西 / シボレー葛西

(株式会社光岡自動車)

 

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